4 その正体

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「遅いなぁ……」 携帯の画面をジッと見つめ、ポツリと呟いた。 今日は水曜日。1週間の中で唯一咲間さんとの時間をゆっくりと過ごせる、俺にとってとても大切で特別な日だ。 学校を終え、一刻も早く帰ろうと駅まで早足で歩いていた時だった。携帯がブルっと震えたのに気付いて画面を開くと、咲間さんからのメッセージが届いていた。 『ひなくんごめん! 急な予定が入って、今日は遅くなるかもしれない。先に夕飯食べておいてね。』 早足で歩いていた足を止め、はぁ……と深い溜め息を零した。 仕方ない。急な予定だもんな……仕事かな…… そう思って、頭では理解していてもやはりがっかり感は否めない。 一緒に住む前に言っていた通り、咲間さんの仕事はどんどん忙しくなっていた。 自身のクリニックでの診察はもちろん、保育園や小学校の校医を担うようになったり、歯科学会への出席、歯科医としての仕事を終えてからも雑誌の取材や、歯科関係者の結婚式やパーティーへ呼ばれる事も度々あったりして毎日目まぐるしい日々を送っていた。 毎日クタクタになって帰ってくる咲間さんは夕食を取らずに寝てしまう事もしばしばで……だからこそ、休診日の水曜日だけはゆっくりと過ごして欲しいと思っていた。 たわいも無い会話を交わしながら咲間さんと一緒に食事をする事やその後の歯磨きタイムから始まるアルバイト、週に一度のヘッドマッサージ……眉尻の下がった柔らかな笑みを浮かべる咲間さんとの時間は俺にとってかけがえのないものになっていた。 ひなくんと居ると楽しいって言って欲しくて。 幸せそうに俺の歯に触れる咲間さんの笑顔を見ていたくて。 ただ必要とされる事が何よりも嬉しかった。 深夜0時を回った頃、まだ帰らない咲間さんを心配に思った俺は電話をかけようと携帯を手に取った。 その時だった。 扉が開く音がして、俺は急いでリビングのドアを開け、玄関に向かった。 見慣れた筈のそこには知らない男が立っていて、その背中には真っ赤な顔をして眠る咲間さんがいた。
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