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「あれ? 君、誰?……」
「えっと、俺はあの……」
驚きと混乱で動揺する俺に、彼は「まぁ、いいや。お邪魔するね。」と言って部屋の中に入り、何の迷いもなくベッドルームへと咲間さんをおぶったまま入って行った。
呆然としたまま動けない俺は、ただその場に立ち尽くしていた。
程なくして、ベッドルームから出てきた男は俺の前に立ち、顔を覗き込むように見やって言った。
「 悪いんだけど、水を持ってきてもらってもいい?」
「……あ、はい。」
俺は言われるがまま、キッチンへ向かうとグラスに水を入れ、ベッドルームの扉の前で待っている彼に手渡した。
「ありがとう。もうさ、大変だったよ。誠一が酔って寝ちゃうもんだから。こいつ寝ると中々起きないから厄介なんだ。何とかおぶってきたけど……あぁ、腰痛ってぇ……。」
彼はそう言って腰をさすりながらベッドルームへ再び入り、眠る咲間さんの肩を掴んだ。
「おーい。起きろー! 家に着いたぞー!水持ってきたから飲めよー!」
耳元に顔を近付けて大きな声でそう呼びかけた後で、咲間さんの身体を大きく揺さぶった。けれど咲間さんはピクリとも動かず眠ったままだった。
「はぁ。やっぱり起きないか。仕方ねぇなぁ……」
彼は呆れたようにそう言うと、そっと咲間さんの頬に触れた。そして何度か頬を撫でた後でゆっくりと触れていた手を離した。
咲間さんを見つめる瞳はとても優しく、そして切ないようにも思えた。
鼓動が早くなっていく。訳もわらないまま言いようのない不安が全身を覆った。
開いたままの扉の奥の、彼の表情から目が離せなくて、拳を握り締めたままその場から動けずにいた。
彼は暫く咲間さんを見つめ後でゆっくりと立ち上がり、名残惜しそうにもう一度静かに頬に触れた。
「誠一、またな。」
一言そう声をかけて触れていた手を離そうとした途端、すっと手が伸びてきて彼の腕を掴んだ。
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