5 絶対なんてない

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「どこ? どこが痛むの? 頭? お腹?どんな風に痛む?」 「ズキズキと……」 「え? もしかして歯?! ひなくん、ちょっと口の中みせて。あーんてしてみて!」 咲間さんは慌てた様子で俺の顎を持ち上げた。 視界の中が咲間さんの顔で埋め尽くされる…… いつもの優しい笑みとは違い、真剣な表情で俺を見つめる顔がそこにはあった。 そんな顔をさせたい訳じゃないのに。 咲間さんにはただ笑っていて欲しいのに。 「すいません。大丈夫です……」 「嘘だ。大丈夫って顔じゃないよ。今にも泣きそうじゃないか。」 「本当に大丈夫ですから。」 呟くようにそう言ってから視線を外し、咲間さんの手が離れるように顔をそむけた。 「ひなくん……」 「すいません……」 ふぅ……と溜め息を吐く音が聞こえて、呆れられたのかと思うとまた胸の奥が痛んで…… 痛くて痛くて仕方がない。 「ひなくん、こっち向いてよ。」 「本当に大丈夫で……」 言葉を言い終わるより先にふわりと身体を抱き寄せられて、気付いたら温かな体温に包まれていた。 「ひなくんは少し無理をし過ぎる所があるよね。もっと甘えていいんだよ。辛い時は辛いって言って欲しいんだ。 まぁ、僕が頼りないから無理をさせちゃうんだろうけど。」 頭上から落ちてくる優しい声に、彼の胸の中に埋まっていた顔をゆっくりとあげる。 あぁ、ダメだ……泣きそうだ。 何でそんな事を言うんだ…… 何でそんな顔で見つめるんだよ…… 何でそんなに…… 優しいんだ。 大好きな柔らかな笑みを浮かべる咲間さんがそこには居て、もう我慢が出来なくなった。 この1か月の間、聡太郎さんに言われた言葉が何度も何度も頭の中で響いていた。 消そうとしても、どうしたって消えてはくれなくて…… それなのに、咲間さんの言葉ひとつ、行動ひとつに胸を高鳴らせたりなんかして…… してはいけない期待を抱いてしまったりもして。 もうどうすればいいのかわからなくなっていた。 何を言われても俺は咲間さんが好きだから。 「痛いのは……ここです……」 肩に回された咲間さんの腕を取って、そっと自分の左胸に当てた。 いっその事、告白してしまおうか。 振られてしまえば楽になれるかもしれない。 「ここって……」 「痛いんです……もうずっと前から……」 俺は咲間さんの手をぎゅっと握りしめた。当てられた手のひらから体温が沁み入ってきて、締め付けられている心臓の鼓動が早くなっていく。 痛い…… 苦しい…… もうこんなの嫌だ。
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