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「どこ? どこが痛むの? 頭? お腹?どんな風に痛む?」
「ズキズキと……」
「え? もしかして歯?! ひなくん、ちょっと口の中みせて。あーんてしてみて!」
咲間さんは慌てた様子で俺の顎を持ち上げた。
視界の中が咲間さんの顔で埋め尽くされる……
いつもの優しい笑みとは違い、真剣な表情で俺を見つめる顔がそこにはあった。
そんな顔をさせたい訳じゃないのに。
咲間さんにはただ笑っていて欲しいのに。
「すいません。大丈夫です……」
「嘘だ。大丈夫って顔じゃないよ。今にも泣きそうじゃないか。」
「本当に大丈夫ですから。」
呟くようにそう言ってから視線を外し、咲間さんの手が離れるように顔をそむけた。
「ひなくん……」
「すいません……」
ふぅ……と溜め息を吐く音が聞こえて、呆れられたのかと思うとまた胸の奥が痛んで……
痛くて痛くて仕方がない。
「ひなくん、こっち向いてよ。」
「本当に大丈夫で……」
言葉を言い終わるより先にふわりと身体を抱き寄せられて、気付いたら温かな体温に包まれていた。
「ひなくんは少し無理をし過ぎる所があるよね。もっと甘えていいんだよ。辛い時は辛いって言って欲しいんだ。
まぁ、僕が頼りないから無理をさせちゃうんだろうけど。」
頭上から落ちてくる優しい声に、彼の胸の中に埋まっていた顔をゆっくりとあげる。
あぁ、ダメだ……泣きそうだ。
何でそんな事を言うんだ……
何でそんな顔で見つめるんだよ……
何でそんなに……
優しいんだ。
大好きな柔らかな笑みを浮かべる咲間さんがそこには居て、もう我慢が出来なくなった。
この1か月の間、聡太郎さんに言われた言葉が何度も何度も頭の中で響いていた。
消そうとしても、どうしたって消えてはくれなくて……
それなのに、咲間さんの言葉ひとつ、行動ひとつに胸を高鳴らせたりなんかして……
してはいけない期待を抱いてしまったりもして。
もうどうすればいいのかわからなくなっていた。
何を言われても俺は咲間さんが好きだから。
「痛いのは……ここです……」
肩に回された咲間さんの腕を取って、そっと自分の左胸に当てた。
いっその事、告白してしまおうか。
振られてしまえば楽になれるかもしれない。
「ここって……」
「痛いんです……もうずっと前から……」
俺は咲間さんの手をぎゅっと握りしめた。当てられた手のひらから体温が沁み入ってきて、締め付けられている心臓の鼓動が早くなっていく。
痛い……
苦しい……
もうこんなの嫌だ。
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