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「はい。どうぞ召し上がれ。」
「いただきます。」
「たまには洋食もいいでしょう? 先生は和食の方が好きだからこんな時でもないと中々作れないのよ。」
「はぁ……そうなんですね。」
和食の方が好きなんだ……
俺はそんな事も知らなかった。
憂鬱な気分のまま、とろりとしたデミグラスソースのかかったオムライスを口に運ぶ。
「美味しいです……とても……」
口の中に広がる温かな味に胸がいっぱいになる。油断したら今にも泣きそうだ……
「そう。お口に合って良かったわ。それで、一体何があったの?」
「え?……」
「何かあったんでしょう? さっきの日向さん、捨てられた子犬みたいな顔をしていたわよ。」
「いや……えっと……」
「言いたくないならいいのよ。少し心配になっただけだから。ただのお節介だから気にしないで。」
そう言って優しく微笑む里村さんを見ていたら、全てを打ち明けたい気分になった。そうはいっても〝全てを〟という訳にはいかないけれど。
「食べた後に話を聞いてもらってもいいですか? せっかくの料理を冷ましてしまうのは申し訳ないので。」
「もちろんよ。ゆっくり食べて下さいね。」
里村さんの微笑む顔に頷いてから、俺はもう一口、オムライスを口に運んだ。
美味い……
食べる度に何だか心が解かれていくようで、涙を堪えながら夢中になってオムライスを頬張った。
「ご馳走様でした。とても、本当にとても美味しかったです。」
「喜んでもらえて良かった。顔色も良くなってきたわね。
さて、食後にコーヒーでも入れましょうか。」
「あ、それは俺が! 俺が用意します!」
俺は食器を片手に慌てて立ち上がり、キッチンへ向かった。
「美味しい。」
「本当ですか? 良かった……」
「それじゃぁ、そろそろ話を聞かせてもらいましょうか。」
「はい……」
優しく微笑む里村さんの顔を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。
「実は、好きな人が居て……だけど、その人は俺の事なんて何とも思っていなくて。それに多分……その人には大切な人がいるような気がして……」
「それはとても切ない片想いね。でもまだ諦めた訳ではないんでしょう?」
「え……」
「諦められないから悩んでいるのよね。」
「そう……ですね。最初はただ側に居られるだけでいいと思っていたんですけど、やっぱり自分だけを見て欲しいとか、欲が出てきてしまって。相手に何とも思われていないのにバカですよね。俺なんかに手が届く人じゃないし、諦めるべきだってわかっているんですけど……」
そう自嘲気味に笑う俺を見て、里村さんはふっと小さく笑った後でこう言った。
「バカじゃないわ。当然よ。誰だって好きな人には自分だけを見て欲しいと思うものよ。諦めたくても諦められない想いならそのまま持ち続ければいいじゃない。」
「でも……辛くて……彼の笑顔を見ているだけで胸が痛くて仕方がないんです……」
言い終わってすぐにハッとした。
今、俺……「彼」って……
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