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「それはそうよ。痛いに決まっているわ。でもその胸の痛みは大切にしてね。誰かを本気で好きになった証拠だもの。」
あれ? 気付かれていない?
良かった。
セー……
「でも厄介な人を好きになっちゃったわねぇ。先生は自分の事にはとても鈍感だし、男女問わずおモテになるし……罪なお方よね。」
フ……なんかじゃなかった。
完全にアウトだ。
「あの、里村さん! 俺は別に咲間さんが……とは言ってないですよ!
彼っていうのはその……なんていうか……えーっと……」
苦しい……苦しい言い訳だ。
これ以上言っても逆効果かもしれない。
菩薩のように微笑む里村さんを前に俺は観念する事にした。
「……すいません。そうです。咲間さんが好きなんです。」
「ふふ。素直ね。でも安心して。随分前から気付いていたわよ。」
「えぇ?! 何で……え? どうしてですか?」
それに、安心して。って何だよ。
「だって、日向さんとってもわかりやすいんだもの。顔に書いてあったわ。先生の事が好きって。」
聡太郎さんと同じ事を里村さんにも言われてしまった。
俺ってそんなにわかりやすいのか……だったらもう咲間さんにも気付かれているんじゃないのか?
だとしたら……そうだとしたら……
どうしよう……
どうしたら……
「でも大丈夫よ。さっきも言ったけど先生は超が付くほどの鈍感だから。日向さんの想いには気付いていないわ。」
俺の心が読めるかのように里村さんはそう続けた。さすがミラクルスーパーウーマンだ。
「良かった……」
「それにね、好きにならない人はいないのよ。先生と一緒に居れば好きにならずにはいられないんでしょうねぇ。まぁあの容姿だし、仕事も出来るし魅力的だとは思うけど、それと同じくらいダラシがないのに。それが逆にいいのかしらね? ほら、ギャップ萌えって言葉もあるんでしょう?」
いや、でしょう? って言われましても……
それに今サラッと、他にも沢山咲間さんを好きな人が『いる』、もしくは『いた』って言っているようなものじゃないか。
里村さんはどこまで咲間さんの事を知っているんだろう……
「あの、里村さんは聡太郎さんと孝太郎さんをご存知ですか?」
「えぇ。先生の幼馴染みさん達よね。双子の。彼らもとても素敵な人よね。」
「えっと、実は今日病院で会ったんです。」
「そうだったのね。孝太郎さんは凄い人よ……。あんな事があったのにいつも笑顔でいらっしゃって……」
「あんな事……?」
「あら、もしかして日向さんは何も知らないの?」
里村さんは俺の顔を見てすぐに悟ったのか、しまったといわんばかりの表情でそう言った。
「はい。何も知りません。孝太郎さんに何があったんですか?」
「私の口から言ってもいいのかしら……」
「教えてください!知りたいんです!咲間さんと孝太郎さんの事……」
「私も詳しくは知らないのよ。だけど……孝太郎さんはね……」
いつのまにか前のめりになっていた俺の顔を見つめながら、里村さんは小さく息を吐き出した後で話し始めた。
さっきまでとは違う、どこか悲しげな表情で。
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