5 絶対なんてない

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マンションの部屋の扉が閉まった瞬間、まだ靴も脱いでないというのに、誠一の身体を強く抱き締め奪うように唇に触れた。 「待って……」と微かに聞こえる掠れた声を無視して強引に唇をこじ開ける。 触れた舌の温度に、誠一の吐息混じりの甘い声に、身体は今にも燃えてしまいそうな程に熱くなっていく。 「聡太郎……ねぇ、待って……聡太郎……聡ちゃん……」 「何だよ……ここまで来てやめるなんて言わないよな……」 「言わないよ……でも、ここ玄関だからさ。」 耳元で囁かれる甘ったるい声に、顔がカッと熱くなった。 余裕がないにも程がある。 恥ずかしさを隠すように、また誠一の腕を強く引いた。 ベッドの上に乱暴に押し倒して、貪るように首筋に口付けた。シャツのボタンをひとつ外す事すら焦ったくて、早く肌に触れたくて。 喉元を撫でるように舌を這わせながら、左手は無理やりに引っ張り出したシャツの裾の中に差し入れた。 手のひらに伝わる誠一の体温とその感触に息をするのも忘れて夢中になっていた。 「んっ……首には跡付けないでね……」 「わかってる……」 「見えない所なら好きにしていいから。」 「〝して欲しい〟の間違いだろ?」 暗闇の中、カーテンの隙間から漏れる僅かな月明かりに照らされて見える、露わになった身体はとても艶めかしくて。微かな笑みを浮かべて俺を見つめるその顔は天使の顔をした悪魔のようで、とても綺麗だ。 「っ……噛んで……もっと……強く……」 「これ以上は傷になる……」 「いいよ……なっても……」 「よくねぇだろ……」 「頼むよ……お願いだから……」 そう言って蠱惑的な瞳を向ける誠一に、躊躇いながらも求められるがままに肩を噛んだ。 歯が肌に食い込んでいく度に漏れ出る吐息混じりの喘ぐ声が耳に響いて、背中に回された誠一の手に次第に力が入っていくのを感じた。 結局俺はおまえには抗えないんだ。 求められれば、拒めない。 「ねぇ……挿れないの?……噛んだまましてよ……」 耳元を掠めた甘い声に、肩に埋めていた顔をあげて誠一の顔を見やった。 「明日仕事だろ……」 「大丈夫だよ。優しくしてくれたら。」 「出来る自信がないから言ってるんだ。」 「ふ……優しいんだね……」 そう言って、微笑む誠一に胸の奥がギュッと締め付けられた。 優しいよ俺は。おまえと違って。 だから傷付けたりしない…… だから…… 何も言わないと決めたんだ。 代わりでもいいから。 お前の側に居られるなら。
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