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「うわぁ、けっこう凄い事になってるなー。」
「おまえが噛めって言ったんだからな。」
「聡太郎も好きなくせに。僕だけのせいにするなよ。」
嬉しそうな顔……
俺は別に好きじゃないよ。
こうでもしなきゃ、おまえは俺を求めないから。
「歯 だけじゃなくて、歯の跡にも興奮すんの?」
「んー。跡にっていうより噛まれている時に肌に歯が食い込む感触に興奮するんだ。まぁ、たまに跡を見て思い出して興奮したりもするけどね。」
「変態ヤロウ。」
「噛みフェチの奴に言われたくない。」
「そうかよ。」
そういう事にしておけば、これからも俺を求めて必要としてくれるのだろうか。
「もう帰るのか? 送ってやるからもう少しゆっくりしていけば?」
背を向けて、シャツのボタンに手を掛ける誠一にそう言った。
「ありがとう。そうしたいんだけどひなくんが心配なんだ。仕事の前に会っておきたいから帰るよ。」
「そうか。あのさ、誠一……孝太郎の事だけど……」
「うん……わかってる。」
孝太郎の名前を口にした途端、悲しさの滲む声色にひどく胸が痛んで、その背中を見ていられなくて全てを覆い隠すように後ろから抱き締めた。
誠一は振り返る事もなく、俺の腕に触れる事もなく、
「聡ちゃん……何で絶対はないのかな……
絶対があれば諦められるのかな……」
静かに、ただ静かに、そう言った。
いつからだろう。肩を震わせる事も、声を詰まらせる事もなくなったのは。
今ここにあるのは、諦めに似た、けれど諦め切れない行き場のない想いだけだ。
どんなに優しく抱き寄せても、
守りたくても、
俺には誠一を救う事は出来ない。
孝太郎……おまえはいつまで誠一を苦しめるんだよ。
いつになったら……
思い出すんだ……
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