6 変わらない想い

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6 変わらない想い

「あれ? ひなくん、随分早起きだね。」 リビングの扉が開き、少し驚きの混じった優しい声と共に、柔らかな笑みが視界に飛び込んできた。 咲間さんだ……咲間さんが帰って来た…… 彼の顔を見た瞬間、色々な思いが込み上げてきて堪らなくなってしまった。 気付いたら俺は咲間さんの身体を抱き締めていた。 「おかえりなさい……」 「ただいま……ひなくん? どうしたの?」 「何でもないです……」 「本当に? そうだ、腕はどう? まだ痛む?」 抱き締めていた腕を解き、ゆっくりと顔をあげれば、そこには心配そうに俺を見つめる咲間さんの顔があって。心臓がきつく締め付けられて、また泣いてしまいそうだったから直ぐに顔を逸らした。 腕の痛みなんてとっくに忘れていた。 「もう大丈夫です。里村さんも来てくれましたし。咲間さんが連絡してくれたんですよね……ありがとうございます。」 「ううん。僕が側に居てあげられなくてごめんね。」 「いいんです。帰ってきてくれたから……」 「……ひなくん、顔見せて。」 咲間さんはそう言って、俺の顔を覗き込むように顔を近付けたりするから、俺はどうしていいのかもわからずに逸らしていた顔を両手で覆った。 「どうして隠すの?」 「……理由はないです。」 「嘘だ。ねぇ、ひなくん。昨日予定があるって言ったのも嘘だよね。僕の事を気遣ってそう言ってくれたんだよね……本当にごめん。 もしも怒っているなら……」 「怒ってません! 怒ってなんていませんから……」 咲間さんの言葉を遮って、大きな声を上げてしまった。思わず離してしまった両手は今、咲間さんの手にぎゅっと握られている。 捕らえられた瞳を逸らす事が出来ない。 困ったように微笑みながら、俺を真っ直ぐに見つめるその瞳から逃げる事など出来る訳がない。 「目が少し赤いね。泣いていたの?」 俺は弱々しく首を横に振ったけれど、そんな嘘が通用するはずもなくて…… 「腕、痛かった? それとも僕が居なくて寂しかった?それとも……他に何か理由があるのかな……」 優しい声が耳に響く。 顔が熱い。 握られている手も熱い。 鼻の奥がツンとして、視界が滲む。 ダメだ。泣いちゃダメだ。 そう必死に自分に言い聞かせてみても、全く言うことを聞いてくれない。 堪え切れずに涙が溢れ落ちて、何か言いたいのに唇が震えて言葉にならない。 「……すいませ……俺……」 なんとか声を絞り出そうとしても上手くいかなくて、せめて涙を隠したくて俯いた。 泣いてどうするんだ…… 困らせてどうするんだ…… 「もういいよ。何も言わなくていいから……」 柔らかい声に導かれながら、ゆっくりと身体を抱き寄せられて、温かな手が俺の背中を撫でる。 「この間も言ったけど、もっと甘えてくれていいんだよ? 僕が頼りないからそう出来ないのかもしれないけど、我慢して欲しくないんだ。何か出来ることがあるなら何でも言って欲しい。 僕自身に問題があるのかもしれないけど…… ねぇ、ひなくん……もしも僕と居るのが辛いなら……」 「辛くなんてないです。」 「でも……無理ばかりさせているんじゃないかって……」 「そんな事ないです! 俺は……これからも……ずっと咲間さんと一緒に居たい….…」 ふわりと俺を包む咲間さんの身体を、今度は俺が抱き締めた。ぎゅっと強く、離れないように。
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