2 八の掟

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2 八の掟

1、アルバイトのある夜は自分で歯を磨かない。 2、その日食べた物を覚えている限り報告する。 3、1回1時間を原則とし、けれど了承を得れば延長も可とする。 4、8の付く日はスペシャルデーとし、1回2時間とする。その為、報酬も2倍とする。 5、出来る限り口外しない。 6、お互いのプライベートは詮索しない。 7、辞めたい時は速やかに報告する。 8、歯を大切にする。 「こんな感じでどうかな?」 朝食を食べ終えた後、「まだ時間ある? 」と聞かれて頷くと、カウンターテーブルに置かれたパソコンをいそいそとガラステーブルへ持ってきた咲間さんは、開いた画面を見せながら遠慮がちに俺の顔を見やってそう言った。 これは契約書? になるのだろうか。8の掟ともいわんばかりに並べられた言葉を1つずつ目で追っていく。 「えっと、このスペシャルデーっていうのは?」 「あぁ、毎月8の付く日は特別なんだ。歯の日だからね。だからスペシャルデーにしたんだけど、もしも嫌だったら変更するよ。」 「いえ、別にいいんですけど。どうして8が歯の日なんですか?」 「え、だって……8はハでしょ?だから歯の日。」咲間さんは、さも当たり前のように自信満々な表情でそう言った。もちろん甘く蕩けるようなお得意のキラースマイルと供に。 「いやいや、そんな国民の休日みたいな言い方をされても……」なんて脳内で呟いてみたけれど、あまりに嬉しそうな顔で言ったりするものだから、そんな日があったりしてもいいのかな……なんて思ったりもして。 我ながら俺ってチョロいよなって思ってみたりなんかもして。 チョロいってどうなのよ? とも思うんだけど、チョロいものはチョロいから仕方がないのだ。 俺はこの人のこの笑顔にはどうしたって抗えない気がする。 咲間さんのキラースマイルを見つめながら『人たらし』って言葉が頭の中に浮かんだ。 良い意味でも。 悪い意味でも。
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