私が夢見たもの

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 窓の外がオレンジ色に染まる。私は誰もいない教室で一人、それを眺めた。遠くの方ではサッカー部やらテニス部やらの掛け声が聞こえるけど、静まり返ったこの教室とはあまりに対照的で、私のいるこの教室だけすっかり切り取られたように感じてしまう。  ほんの一、二時間前までは沢山の人がここに居て、授業を受けたり馬鹿騒ぎしたり、あんなにも賑やかだったのに。今は気温が数度下がってしまったみたいだ。どの机を触ってもひんやりしていて寂しい。  前から4列目の一番窓際の私の席。硬くて冷たい机の上に座り、私はもう一度窓の外を見る。ちょうどその時、閉めていたはずの教室の扉がゆっくり開いた。無音だった私の世界をこじ開ける音。我に返った私は扉の方に視線を向ける。 「あ」  恐る恐るといった風に教室を覗いたのは、長い黒髪を無造作に下ろした一人の女生徒。彼女は誰だっただろう。同じクラスなのは分かるけれど。私と目が合って数秒。彼女は少し固まって、そのうちに口もとを綻ばせた。 「あの、倉川(くらかわ)さん……だよね。一人で何してるの?」  何をしているのかと言われても特に何もしていないから。反応に困って取り敢えず微笑んだ。そうだな。私は何をしているんだろう。しいて言うなら余韻に浸っていたのかもしれない。 「えっと、私ね。私は、忘れ物をね、取りに来て。あの、入っても……いいかな」 「うん、どうぞ」  どうぞと言っているのにすぐには動かない彼女。右を見て、左を見て、それから教室の中へ足を踏み入れ、後ろ手で慎重に扉を閉めた。私がずっと見ているから居心地が悪いのか。瞳を泳がす彼女から視線を外す。彼女は何か言いたげだったけど、そのうちにごそごそと机の中を漁り始めた。  私は一人でまた窓の外を眺める。さっきまで聞こえていた部活動の掛け声が全く耳に入ってこない。鼓膜に届くのはひたすらに物を掻き回す音だ。ごそごそ、ごそごそと。止んだと思ったらまた始まって、机の中に無かったらしい彼女はロッカーに移動してまた掻き回す。 「あれじゃないの?」 「え?」  気が散って仕方なかった私は、スッと教卓の上を指差した。彼女も顔を上げて私の指の先を辿る。置いてあったのはオレンジ色のペンケース。それを見た彼女は表情を明るくさせる。 「あ、そう! あれ! 私の忘れ物!」 「良かったね」  何の気なしに窓を開けてみたけど、思ったよりも強く風が吹き込んだのですぐに閉めた。一瞬で乱れた髪を直すのが煩わしい。こんな中で部活動をやっているなんて凄いな。私は万年帰宅部だから。 「あの、あのね。倉川さんは……知ってる?」 「何を?」  ああ、まだ居たんだ。私が窓を開け閉めする謎の行動も見られていたのだろうか。聞き返しながら振り返ると彼女は想像以上に私との距離を詰めていた。教卓の辺りにいたはずの彼女は私と机一つ挟んだ向こう側にいて、目が合う。 「あのね、私がね、戸崎(とざき)ちゃんに虐められてたこと」  何故か口もとをにやけさせた彼女は、そう言って声を弾ませた。
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