私が夢見たもの

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「それでね、一昨日の放課後に私ね、見ちゃったんだけど」  私は「やっぱりそうだったんだ」って嬉しくなって。何かを一生懸命に殴る戸崎さんをじっくり眺めた。とても素敵な時間だった。見れば見るほど確信に変わっていくから。あれこそが本物の火傷跡なんだと。あの日見た映画の主演女優のような特殊メイクではなく、紛うことなき実物。それがあまりに嬉しくて、私は。 「倉川さん、戸崎ちゃんと二人きりで会ってたよね?」  その日の放課後、戸崎さんを呼び出したのだ。  直接話すなんて初めてのことだから怪訝そうにされたけど、今まで誰とも敵対することなく静かに生きてきた私だったからか、さほど警戒することなく言う通りの場所に来てくれた。とっても嬉しかった。だって夢が叶う時だと思ったから。 「ごめんなさい、怒ってる? 倉川さん。違うの。あのね。全部聞いてね」  いつも気になっていたのだと正直に話し、腕の火傷跡を見せて欲しいと頼んだ。少し気味悪がられてしまったのは今思い出しても寂しい。けれど渋々ながらも袖を捲ってくれて、実際に目にしたそれはあまりに痛々しかったんだ。肩までの広範囲で楕円形に盛り上がった火傷跡は、映画で見たものより強烈に私の頭を掻き乱す。  私の様子に若干引いた様子を見せながらも、戸崎さんは幼い頃に事故で負ったものなのだと教えてくれた。それを聞いたら情けないけど涙が出てしまいそうで。本当に嬉しくて。 「ねえ倉川さん。もしも、だよ? もし私がね、たまたま……その、本当に偶然にね、倉川さんが戸崎ちゃんにカッターの刃をね、向けてるところを見ちゃったとして。それで……」  戸崎さんの火傷跡を撫でながら「痛かったよね、辛かったよね」と涙が溢れてしまって、それで。 「戸崎ちゃんの首を切るところ見ちゃったって言ったら、どうする……?」  困惑する戸崎さんの首筋を思いきり切り裂いてあげたんだ。 「違うんだよ倉川さん。私ね、嬉しいの。倉川さんが私のために戸崎ちゃんを殺してくれたことが」  戸崎さんはとても驚いていた。くりっとした瞳を私に向けて、いつものふわふわした髪を噴水のような血で汚し、最後まで呆然とした表情で私を見ていた。そんな戸崎さんに泣きながら微笑みかける。「もう大丈夫。頑張ったね」って、優しく優しく言葉をかけた。  解放されるのだと知った戸崎さんはどんな思いだっただろう。唐突にその時が来て、少し驚いてしまったのかもしれない。本当は抱きしめてあげたかったんだけど、私の制服にも血がついてしまいそうだったのでやめた。
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