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茉奈が住宅街側にある公園の入り口に辿り着いた時、丁度そこから美代が出てきた。相変わらず目は赤く、牙も唇からはみ出ているが、先ほどのような興奮状態にはないらしかった。
明らかに上機嫌の彼女は、小走りに茉奈のところへ駆け寄り、その体に抱き着く。
彼女を抱きとめ、茉奈は立ち上る香りに気付いた。
慌てて人目につかない位置に彼女を移動させる。それから、美代の目を見て茉奈は尋ねた。
「……食べたんですか?」
返事は無くとも、項垂れる美代を見れば肯定したようなものだ。。
月明かりの下で見ると、上目遣いを見せる彼女の顔には、赤い斑点が口を中心にいくつか飛んでいた。着ている服も血でべっとりと汚れている。疑う余地はどこにも残されていなかった。
「とりあえず、これ」
ため息を一つ吐いた茉奈は、リュックの中からウェットティッシュと新しい彼女の洋服を取り出して渡した。
「お腹減ってたのよ……」
食べたかったんだもぉん、とウエットティッシュで口の周りを拭きながら唇を尖らせる。
「綺麗に食べました?」
「……ちょっと、残した」
「それ、どうしたんです?」
「えー……そのまま?」
「もう、そこから足がついちゃうでしょ。着替えて、それから片付けに行きましょ」
「はぁい……」
ごめんねぇ、と美代は茉奈を上目遣いで見ながら謝った。
「良いんです。やっぱり美代さんには人が一番の御馳走ですもんね」
「……うん」
照れくさそうに頷く美代の頭を、茉奈はそっと撫でた。くせっけの柔らかな感触が手に心地よい。それから、血だらけの服を脱がして、新しく持ってきたのを着せてやる。こういう時にスピーディーな着替えが出来るから、ゆったりした服が茉奈は好きだった。
「大丈夫。私が守ってあげますから」
襟元のボタンを留めてやりながら茉奈がそう言うと、美代は嬉しそうにニコッと笑った。
「ありがと、茉奈」
「どういたしまして。さあ、お片付けに行きましょう」
茉奈の差し出した手を美代はぎゅっと握った。
手をつないで歩きながら、茉奈は美代に尋ねた。
「今度から、もう少し計画的にしませんか? 美代さんてば手あたり次第に食い散らかすから、いっつもお片付け大変なんですよ」
「前向きに? 善処する?」
「使い方がはっきりしないなら、無理しなくていいんですよ。しかもそれは善処しない人の答え方……」
そんな事を言いながら、二人の姿は夜の公園へと消えていったのだった。
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