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テレビではニュースが流れていた。
公園で若い女性が殺されたニュースだった。ナイフで何ヶ所も傷つけられていたと、新味ような顔をしたリポーターが喋っている。その背後に見えるのは、良く知った公園だった。ここから徒歩でも行ける広い公園だ。
「怖いですねぇ」
「うんー」
生返事。
食卓を拭いていた茉奈がその手を止めてソファに目を向ける。
いつの間にかクッションは絨毯の上に落とされ、美香子はそのニュースに目を向けたまま固まっていた。
「美代さん?」
「これ、そこの公園だよねー」
「……ですね」
「女の子、可哀想だねー」
「そうですね……」
「こういう奴、許さなくって良いんじゃないかな」
「ダメですよ?」
「えー」
「絶対に公園に行っちゃだめですよ?」
「ダメなのー?」
「ダメですとも。少なくとも、この一件が落ち着くまでは」
「うー……」
悲しげというよりは不満げだった。
だが、茉奈は毅然とした口調で美代をたしなめる。
「ダメですよ? 美代さんだって危ないんですから。せっかくここまで……」
「でもー、悪い奴だよー」
「それでもです」
「うー」
完全に不満が勝っている。
歯をむき出しにして茉奈を睨みつけている。
「そんな顔しても……」
「お腹減ったぁ!!」
突然叫ぶ美代。
「ちょ、今食べたばっかりでしょう?」
「お腹減ったの、茉奈!! 私、お腹減ったのよ!!」
茉奈に向けられた美代の目が赤く充血していた。
口元の八重歯が伸びて、口の外まではみ出そうとしている。
髪の毛が風も無いのにゆらゆらと揺れた。
「美代さん、落ち着いて。お肉食べましょう。すぐ用意しますから」
「う、お肉……食べる」
茉奈はキッチンに駆け戻り、冷蔵庫から肉の塊をもう一つ出す。
本当は明日の為に取っておくはずだった肉だ。常温で無いから、火は通らないだろう。
オーブンを暖めている時間もない。
せめて表面だけでも。生肉の味は極力避けたかった。
エプロンをつけ、慌ただしく火を起こし、油を引いた鉄鍋を熱する。
肉を乗せた途端、ジュワァァァと言う気味の良い音。立ち上る煙。香ばしい匂い。
その時、パリーンという甲高い音が部屋に響いた。
「あ、こらっ、美代さん!?」
慌てて火を消してリビングに戻った時には、もう部屋のどこにも人影は無かった。
割れた窓から吹き込むよ風で、ただカーテンが揺れているのみ。
「ああ、もう。せめて窓は開けてよ……」
茉奈はエプロンを外し、別の部屋に置いてあった黒いリュックを引っ掴むと、慌ただしく外に飛び出した。
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