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第一話 準々決勝
準々決勝。
真夏の太陽が照りつける。
対戦相手校は、三回戦に続き、優勝候補の一角、蔭桐高校。
蔭桐高校側のスタンドには、ブラスバンド・チアガール・ベンチ入りしていない大所帯の野球部員たちを筆頭に、大応援団が形成されている。気合いも入るが、プレッシャーにもなったりすることもあるのだろうな~。
一方、僕たち大らかソフトナ高校側のスタンドは、スッカラカン! 無名の僕たちが勝ち上がって来たことにも、世間は大騒ぎだったが、気楽なスッカラカンスタイルのスタンドにも、世間の注目が集まっていた。
僕たちは、前もって校内で盛大な応援をしてもらったので、その光景を脳裏に焼きつけ、みんなの思いを胸に、今日は戦える。
炎天下のスタンドへ応援に来てもらえるなら、そりゃ~ありがたく、うれしいことだ。だけど、大量に熱中症患者や体調不良患者が出たりしたら、それこそ心配だ。
その点、うちの高校は、地元のケーブルテレビの中継を活用させて頂いて、クーラーの効いた視聴覚教室等々で、飲み物を飲みながら、おつまみをつまみながら、パブリックビューイングで観てくれていると思えば、僕らも心配なく、いい意味で気楽に野球に集中できる。
自分たちのプレーを、自分たちなりに楽しみ、心身のリラックスした状態で、ベストパフォーマンスを引き出す。うちならではの戦い方で、いざ、準々決勝に挑む。
みんなそれぞれに、秘かな闘志を燃やしながら、ベンチ前で軽くウォーミングアップをしていた。スッカラカンの大らかソフトナ高校側のスタンドにも、チラホラと、高校野球ファンらしきおっちゃんたちが、ポツン、ポツンと座り始めておられた。すると、
「大らかソフトナ~、ファイト~!」
と、ベンチの上から、赤井生徒会長が、僕たちに声を掛けてくれた。
「ちわ~っす!」
みんなで挨拶。
「しかし、まぁ~、ほんとに、今日も強烈な暑さだけど、みんな、大丈夫~?」
「あざ~っす♪」
学校からは、誰も応援には来ないと思っていたのに、意表を突いて、生徒会長の赤井さんが観に来てくれて、ちょっと声を掛けられると、やはり、みんなうれしそうだった。
「赤井さ~ん!」
「なぁ~に~?」
「『試合当日、みんなスタンドには行きませんよ~! だって、暑いんだもホホホホ~
ん!』って言ってたのに、さっすが、よっ! 生徒会長! 観に来てくれたんすね~!」
僕が問い掛けると、
「校内でのパブリックビューイング、思ってた以上に人が集まっちゃってさ~、スルメと枝豆足りねぇ~な~ってことで、ついでに、飲み物も買い出しに行こうってなってさ~、PTA会長さんのトラックで急遽買い出しに来たのよ~!」
って、ことだった。
「そうなんすか~! じゃあ、今から学校へ帰って、スルメとか枝豆とかつまみながら、コーラとか飲みながら、クーラーの効いた部屋のテレビの前で、『かっ飛ばせ~ッ!』って、赤井おっさん化現象なんすね~♪」
「そだね~ッ! でも、今日の場合はさ~、『赤井おっさん化現象』の前に、球場に『赤井おったんか現象』……、なんつって~♪ ハハハ~ッ! じゃあ、皆さん、ごきげんよう~ご陽気に~♪」
「アハハ~ッ! あざ~っす♪」
赤井さんとのやりとりで、場が和み、いい感じで、みんなの肩の力が抜けた。
みんな、表情豊かに、集中力が高まった!
ー 第二話へ、つづく ー
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