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第六話 勝負
7回裏、ファーストに入っていた西葛先輩がピッチャー。代走に出たブンケリッジ先輩がサード。代打に出た僕がファーストに入った。
右のアンダースローからの、フワッとゆるいカーブとバッターの内角をえぐるシュートとストレート。西葛先輩の緩急極まるピッチングが冴え、三者凡退!
8回表、1点でも追加点が欲しいところだったが、中今のキレのあるストレートに、こちらも三者凡退!
8回裏、ポンポ~ンッと、テンポよく2アウトを取り、三人目の二番・村浅をショートゴロに打ち取った。
……と思った瞬間ッ! 打球が、ポーンッ! とイレギュラー! 無情にもレフト前へ転がった。
続く三番・村中にも、三遊間を抜くレフト前ヒットを打たれ、8回裏2アウトから、ランナー一塁二塁。蔭桐の強力打線に火が点き始めた。
ここで迎えるは、超高校級スラッガーの四番・翔田中。キャッチャーでキャプテンの田古先輩がタイムを取り、マウンドに内野陣が集まった。
「相手も俺たちと勝負してくれた。だから、満塁策で歩かせるという選択肢は、なしッ! で、いいよな?」
「はいッ!」
全員、勝負で一致!
「みんな思い出してくれ、俺たち大らかソフトナ高校のモットーは、『目指すな! 全国大会!』だ!」
「はいッ!」
「打たれてもいいから、高校時代の、この瞬間、翔田との勝負を楽しもう!」
「はいッ!」
「俺たちの逃げない姿勢は、観てくれている人たちにも、何かを感じてもらえるだろうし、また、何より、俺たち自身のこれからの人生においても、悔いを残さないと思う」
「はいッ!」
「行くぞ!」
「はいッ!」
右打席に立つ翔田への一球目。右のアンダースローから、浮き上がって来るような内角高めへの厳しいストレートで、空振り!
二球目。真ん中へフワッと浮いて、外角低めへ、ストンッ! と落ちるカーブで、
「ストライ~クッ!」
ノーボール、2ストライクと追い込んだ。
三球目。翔田の内角をえぐるシュートが、ボール約一個分、ベース寄りに甘く入った!
ー カキーーーンッッッ!!! ー
金属バットの、ものスゴい快音が球場内に響き渡り、翔田の打球はレフトスタンド最上段へと吸い込まれて行った!
3ランホームランで、一気に、4ー3に!
蔭桐のスタンドは大盛り上がり!
再び、僕たちはマウンドに集まった。傍目には、励まし合い、慰め合い、そして、蔭桐の盛り上がる大応援団を羨ましそうに眺めているような光景だった。
……がッ!
「盛り上がって来やしたね~、旦那!」
「これぞ高校野球でございやすね~!」
「蔭桐の吹奏楽部の演奏も素晴らしいでやんすね~!」
「チアガールの足の上がり具合も最高でござんすね~♪」
「お主もスケベよの~♪」
「ニャッハッハッハ♪」
と、こっちはこっちで、盛り上がっていたのだった♪
リラックスしたところで迎えるバッター、五番・田平。
一発出れば同点の場面、初球。真ん中高めへのストレートを、
ー カキーン!ー
大きな当たりがセンターへ! バックスクリーンに飛び込む、同点のソロホームランか~~~ッッッ?!
と、誰もが息を飲んだが、フェンス、ギリッギリのところで、僕と同じく1年生のセンター本近が、ジャンピングキャッチ!
3アウト、チェンジ!
いよいよ9回の攻防へ!
ー 第七話へ、つづく ー
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