第33話

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第33話

蜘蛛型の機動ロボも、動きを停止させている。 俺たちは、動かないその機体の下を、難なくすり抜けた。 「こっちだ」 ジャンとその仲間たちが、輸送用の平たい荷台に乗っている。 ニールの開発したチートツールが、有効化されていた。 ジャンの手にすくい上げられて、それに乗る。 「これでカプセルの搬送作業をしてたんだ。そこにチートかますなんて、ニールも考えたよな」 禁則が緩く、誰も手を出したがらない転生機。 何より最優先されるその作業は、機動ロボといえども、素直に道を開ける。 「お前たちを、スクールの外に出してやる」 「どうして? みんなで一緒に行こう」 ルーシーが、ジャンを不思議そうに見上げる。 彼は、ふっと笑った。 「俺はピクニックに興味はないし、ここから出て行きたいとも思わない。だけど、自分の行動と生きる意味は、自分で決める」 ジャンが俺を振り返る。 「聞いたぜヘラルド、海の向こうが見たいんだろ? だったら、俺たちが見せてやるよ」 通路の灯りが、一斉に消えた。電力が遮断されたんだ。 一瞬グラリと傾いた輸送台は、すぐに元通りに走り出す。 「ほら、これならちゃんと、非常用電力の使用も、無条件で適応されるからな」 動きの止まった警備ロボたちをなぎ倒して、複数体の機動ロボが追いかけてきた。 「お前たちの、好き勝手にはさせん!」 ヴォウェンの声だけが聞こえる。 一体の機動ロボが高く跳ね上がった。 荷台に飛びつかれる前に、その足元に仲間の一人が転がり込む。 返り血を浴びたロボットは、その機能を急停止させた。 「ねぇ、どうして血が出るの? なんで、血がいるの?」 その問いに、答えなんてない。 「それでも行くと、決めたからさ。ルーシー、君も、その意味を知らなくちゃいけない」 通路を繋ぐ扉が、閉じられようとしていた。 その両サイドには、2体の蜘蛛がはりついている。 蜘蛛たちは扉だけを操作して、道を塞ごうとしていた。 それならば、人間の血液に反応して自動停止させられることなく、作業が続けられる。 「ジャン!」 彼はそのまま、閉じかけたドアを突破した。 閉じようとするドアのセンサーが作動し、ゆっくりと開いて俺たちを迎え入れる。 「あはは、安全設計万歳だな」 蜘蛛型ロボットが、天井を這って近づいてきた。 射線が精密に、荷台のコントロールパネルを狙う。 「飛び降りろ!」 ジャンの手が、ルーシーを引いた。 それを合図に、荷台に乗った全員が飛び降りる。 蜘蛛が俺たちの頭上を占拠した。 「確保します。動かないでください。逃走とみなし、攻撃します」 「あら、いい度胸じゃない」 カズコが立ち上がった。 「そんなはったり、聞き飽きたわ」 彼女が、両腕を広げる。 蜘蛛のレーザーが、彼女の腕を貫いた。 「逃げるなら今よ」 走り出した俺たちの足元を、射線がつきまとう。 カズコは、蜘蛛の脚によじ登った。 「ほら、このままだと、あんたの方が動けないわよ」 ロボットの脚が力強く動いて、カズコは投げ出された。 俺たちを追いかけようとするその脚に、彼女はもう一度飛びつく。 「ルーシー、今度は一緒に、ピクニックに行きましょうね」 カズコが微笑む。 蜘蛛の可動部に、肘を挟んだ。 緊急警報が鳴り響き、蜘蛛がガクリと脚をつく。 転がり落ちた彼女の体からは、赤い染みが広がった。 「前だけを見て、走ってろ!」 ジャンたちは、定点カメラを撃ち落としながら進む。 配電盤を破壊しようと立ち止まった仲間の2人が、追いかけて来た蜘蛛の脚に踏みつぶされに行った。 外への出口は、もうすぐだ。
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