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第34話
最後のゲートが見えた。
スクールのエントランスホールは、すでに戦場と化していた。
無数に飛び散った人間の体と、動かなくなった蜘蛛型ロボ、電力の切られた重い扉を、仲間たちが手動でこじ開けようとしている。
「レオン!」
閉じられた扉の前に立っていたのは、レオンだった。
「あれ? ニールとカズコは?」
俺は、黙って首を横に振る。
「そっか、まぁ気にするな。もうちょっとで開きそうなんだけど、さすがに最後の扉は、重くて頑丈なんだ」
嵐から身を守る、巨大シェルターの役割をも果たすスクールの扉だ。
3メートルはある分厚い引き戸を、人力で開けるには無理がある。
「他にも出入り口はあるだろ」
ジャンが言った。
「ダメだね、全部閉じられてるし、監視ロボがついてる。扉一つ開けるのに、人間が何人いても、足りなくなっちゃう」
彼はため息をついた。
「ハーメルンの笛みたいなのがあれば、ロボットたちを全員どうにかできるのにな」
「それだ!」
俺は、すぐにこの空間を飛び交う電波の状況を調べる。
「ヴォウェンは、どこかでこのロボットたちを遠隔操作している。その電波をジャックすればいいんだ」
主要な電源が落とされ、スクール全員のキャンビー外部通信機能が失われた現在、飛んでいる電波の数は限られていた。
「機動ロボの通信だぞ? そんな簡単に、ハッキング出来るわけが……、ニールのキャンビー!」
レオンは、自分のキャンビーをとりだした。
「俺のキャンビー、ニールのと一緒!」
「多分、ハンドリングバイクの試合の時に、転送されたデータを使えば……」
機動スイッチを入れる。
その場に生き残っていた、数台の警備ロボが動き出した。
「こっちかよー」
レオンが肩を落とす。
「機動ロボの方じゃないの?」
「仕方ない。それでも、何もないよりましだ」
両開きの重い引き戸には、人力でも軽く回して開けられる非常用の開閉装置がついていたはずだが、それは機動ロボたちによって破壊されていた。
壊されたハンドル部分にロープをつないで、それを仲間たちが引いていたが、左右を対称に引かねばならない仕組みで、すぐに引っかかるうえに非常に重たい。
俺とレオンは、言うことを聞くようになった警備ロボ2台に、そのロープをつなげた。
モーターを作動させる。
ピンと張った細いロープを巻き取って、彼らは苦しげなきしみ音をあげた。
「焼き切れなければいいけど」
「俺たちが通れるだけの隙間が開けばいい。それだけでいいんだ」
そのサイズであれば、警備ロボは通れても、機動ロボは通過できない。
半壊されたエントランスホールに、機動ロボが現れた。
「みんなで、警備ロボを守るんだ!」
ジャンの声が響く。
スクールの人間が、一致団結している光景を、初めて見たたような気がした。
血だまりのぬめりが、足を滑らせる。
動き出したとしても、警備ロボでは機動ロボたちの相手にならない。
血液に反応して動こうとしない機動ロボと、酸化の進んだ血液に、禁則を乗り越えて動こうとするロボット、複数体から鳴り響く退避勧告と避難警報が入り交じり、ホールの混乱は最大値を迎えていた。
エントランスに接続する3本の通路のうち、左側の通路を塞いでいた機動ロボの生ける屍が、ぐしゃりと踏みつぶされる。
「ヴォウェン!」
ライド型に変形させた蜘蛛型の機動ロボに乗って、現れたのはヴォウェンだった。
たちこめる血とオイルのにおいに、彼はぐっと眉間にしわを寄せる。
「これ以上被害を拡大させるな。資源の無駄遣いだ」
彼の後ろから、次々と蜘蛛がわき出てくる。
これ以上の抵抗は不可能だ。
扉を開ける警備ロボの機体が、悲鳴をあげた。
その時、ビクリともしていなかった重い扉から、外の光が差し込んだ。
わずか数ミリの隙間から差し込むその光は、希望そのものだった。
「行こう! ルーシー、みんなと一緒に外へ!」
機動ロボからの射線が、扉を開ける警備ロボに向けられる。
仲間の一人が、そこへ飛び込んだ。
切断された体から、血液が噴き出す。
「止まっちゃダメだ!」
レオンが、手動に切り替えた警備ロボの操作パネルを動かす。
「人間を絶対に傷つけない仕組みなんて、そんなもの、この世に本当にあるわけないじゃないか」
扉の隙間が、30㎝を越えた。
「もういい、レオン、外に出るぞ!」
ジャンが叫ぶ。
俺たちは、わずかなその隙間から、一斉に外に飛び出した。
そこに向かって、機動ロボが押しかける。
扉の前を塞いだ蜘蛛たちは、その銃口を人間に向けた。
「あぁ、俺も一回くらい、最後まで生きてみたかったな」
レオンはその身軽さで、ひらりと蜘蛛の上に飛び乗る。
「また最初っから、やり直しだ」
発射された光線が、落下する彼の体を縦に切り裂いた。
どさりとその半分を受け取ったロボットは、緊急停止信号の表示を発して、その全ての機能を停止させる。
扉を塞いだ2機のロボットが、動きを止めた。
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