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夜鷹の声
夜の街というのはこんなにも優しい。
人間というのは何故この優しさが分からないのだろうか、とオレは常々思っている。
全てを白日の元に晒け出す太陽は、オレたちのような種族にはとことん害悪なのだ。
その事で人間はオレ達を神に背く反逆者扱いするがそれは全くお門違いだ。
太陽がそんなに尊いものか。こんなに熱く明るいだけの醜い天体が。
(ふむ、今日は誰にするかな)
この近くに確かこの前血を頂いたガールフレンドの家だったな。
ま、あっちはオレのこと覚えてなさそうだけど。
オレは骨ばった黒い羽を翻し、浮き足立った心で空に飛び立った。
少し欠けた月が、煌めく星屑がついてくるような錯覚を起こす。これ、なんか理由があるんだってな……ええっと、忘れたな。今度調べておこう。
風が出てきた。夏が終わり秋が近付いてくる、そんな香りの風だ。
魔界には季節や気候の変化というものがない。だから人間界のそれが酷く新鮮で興味深い。
いい子ちゃんしている奴らには一生味わえない経験だ。ふん、可哀想に。
「よっ、と」
堂々とバルコニーに降り立った。
ここら辺はかなりの田舎で、こんな時間に出歩く人間なんてほぼ居ないだろう。
しかも姿を見られたって、奴らはオレたちの存在を架空の生き物だと思い込んでやがる。だから見たと主張しても、周りは信用しないだろうな。
つくづく偏屈な生き物だ。人間ってやつはさ。
「マイハニー、こんばんわ」
囁くように呟きベッドをのぞき込む。
「君の知らない王子様だよ……ずっと眠っていておくれ」
オレ好みの血色の良さだ。白い肌は結構だが、それはあくまで健康的な範囲内のことだ。血色が悪いのはよろしくない。
だって血を吸ったらぶっ倒れちまうだろ?
オレはあくまで嗜好として彼女達の血液を頂いている。吸い尽くしてミイラにはしたくないのが正直な所だ。
だから何人ものガールフレンドをボトルキープして少しずつ頂く。軽い貧血を起こすレベルまでには気をつけているつもりだ。
これが長年、人間界で吸血させてもらうコツだ。器用に生きなくっちゃあいけないな。
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