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豊かに波打つ髪は月明かりに生えるブロンドヘア。
年齢は16、7程のいい年頃で目をつぶっていても分かる。かなりの美人だ。
分厚めの唇と口元のホクロがこれまたすごくセクシーなもんで、思わず笑みが零れる。
起こさないように最大限に気を付けて、ベッドに歩み寄った。
「……ぅ、ん」
ゆっくりとベッドに乗り上げる。ほんの微かな軋みに良い寝具を使っているのだなと思う。
人間界の身分制度とやらにはあまり興味はないが上質な調度品や家屋、身なりの良さの違いくらいは分かるつもりだ。
この家は少なくても『良い身分』の家だ。そして彼女はそこの『ご令嬢』ってやつなんだろう。
ま、オレにとってはそんな事どうでも良くて、ただ美しい女で美味しい血の持ち主ってことだけが重要だ。
(それじゃそろそろ)
僅かに感じる飢餓感。この為に食事抜いてきてるからな。ほら空腹の方が美味く感じるだろ。これは多分人間も同じなんじゃないかな。
そっと顔にかかる髪をはらい、頬をそっと指でなぞる。吸い付くような瑞々しさってやつだ。やっぱり若いっていいよなァ。
口を恭しく寄せる。口付けするように。傷は残さない。ちゃんと後で消してやるから。それくらいの事は出来るんだぜ。
「……死ね、吸血鬼」
「!」
ゾッとするような冷たい声。
それがこの少女の口から発せられたと分かったのは銃を突きつけられる0.3秒前だった。
「……ッ!」
咄嗟に身体を大きく仰け反らせ、ベッドを転げ降りる。
躊躇なく発射された弾丸は、シャンパンのコルクを抜いたような、微かな銃声をさせてさっきまでオレがいたシーツに風穴を空けた。
「とんだじゃじゃ馬娘ってわけ」
「あら、すばしっこい吸血鬼さんね」
ムクリと身体を起こした少女がそう言って薄く微笑む。
その瞳は紅く、怒りと狂喜に燃えていた。
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