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シュウシュウと穴の空いた寝具から煙と泡が噴いている。奇妙な痕跡だ。立ち上った煙にも何か嗅いだことのない薬品のような臭い。
オレは辛うじて笑みを貼り付けたまま彼女を、周囲をゆっくり観察した。
「今度は離さないわよ、ハニー」
笑みを深めて、再び銃を構える。
銃は偉く小型だ。人間界の銃というといつの間にこんな小型化したのだろう。
それにさっきの銃声や銃痕も。詳しく訳じゃあない、むしろ疎い位のオレでも何かおかしいと気が付くというものだ。
「あ、気が付いたぁ? これ、あんた達怪物対応の特別な仕様よ。これで心臓撃ち抜けば、多少痛いけど速やかに死ねるわ」
「どういう仕組みなのか知らないけど、君みたいなお嬢さんには少し不釣り合いだな」
軽口叩いてみたものの、状況はこの上なく悪い。
なんせ得体の知れない銃口は真っ直ぐこちらを向いているし、バルコニーまでは多少距離がある。
ジリジリと後退はしているつもりだが、そろそろズドンと一発食らうかもしれない。
「な、なァ。オレは別に君を殺そうとか害を与えようって気はさらさらないぜ? まぁ吸血されるのがそんなに嫌だったのなら謝る。でもそんなに沢山吸った記憶はないぞ。あー……貧血くらいにはなったかもしれないが」
自分でも情けないくらい、ベラベラと命乞いをしながらも必死で突破口を考える。
……足元にクッションが二つ転がっているのを見つけた。羽毛がぎっしり詰まった、きっとそれなりに値の張るものだろう。
「あたしはあんた達を殺す動機がある。死ね」
「あー。そう……ッと!」
思い切り一つクッションを蹴りあげる。同時に身体を捻り床に伏せ、もう一つ拾って銃口に向かって投げつけた。
「……っ!?」
時間差で飛んできた二つに動揺したのか、彼女の放った銃弾は先程のように奇妙な音を立ててクッションを撃ち抜く。
瞬間、羽毛が部屋中に舞い散って辺り一面に広がった。
「っ、くそっ!」
彼女が舌打ち混じりで視界を確認した時には既に。
「綺麗なお嬢さん、またね」
そんな軽口叩きながら、オレはバルコニーまで素早く転がって、夜の外に飛び出す……という寸法だ。
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