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聖女と犬
頬に当たるのは柔らか……とは言い難い質素なマットレスとシーツの感触。
「あら。目を覚ましましたか。起きれます?」
柔和な声が降り注ぎ、オレゆっくりとそっちに視線を移す。
寝かせられているらしい。ベッドが軋んだ。
「無理はなさらないで」
そう言って顔を覗き込む一人の女。若い女性のようだ。先程の拳銃女よりもいくらかなり幼い顔立ちをしている。
「貴方、外の墓地に倒れていたのですよ」
どうりで湿っぽい陰気な場所だと思った。汚れたであろう顔や手足は綺麗に拭い清められているようだ。
「あの、貴女が……お嬢さんが助けてくれたのかな?」
「まぁ!」
手を伸ばし、そっと枕元の彼女の指に触れながら問う。すると彼女は頬を染めて視線を外して呟いた。
(えらく初々しい反応だこと)
ほんっと、さっきの拳銃女とは違うな。悪いが女の好みは断然こっちだな。
髪は栗色。化粧っ気はなく少し幼さが残るけれど、その顔立ちは端正で愛らしい。
二度目の逢瀬でいきなり殺しにかかる女より素敵だ。
「私、アメリアです。ここは教会。父が牧師をしております」
そう言って小さく頭を下げる仕草は愛らしい。
心からの礼を言うと、アメリアはさらに顔を赤くして微笑んだ。
「と、当然の事をしただけですよっ!……あ、もう具合は大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だよ。お陰様でね。もうすっかり」
足の痛みも倦怠感も全て無くなって、良く眠って目を覚ました後のようだ。スッキリとしてむしろ気分が良いくらい。
そう言って微笑めば向こうも花の綻ぶような笑みを見せてくれるから、なんだかこそばゆくなってくる。
「もう少し休んでいかれませんか?」
アメリアの可愛らしい申し出に、オレは残念ながら首を横に降らなければならなかった。
窓の外を見れば、もうすぐ夜が明ける。あと数十分もすれば一番鶏が声を上げるだろう。
魔界と人間界の入口は、人間界の日が登れば一旦閉じられてしまう。そうなりゃ色々とやばい事になる。
「そうですか……」
沈みこんだ表情で、それでも笑みを浮かべて送り出してくれようとするこの可愛い人の手をそっと取った。
「アメリア、またここに来てもいいかい?」
「もちろん! 是非いらして下さいね。お待ちしてますわ!」
「ああ、 約束しよう」
そう言って、彼女の小さく細い薬指にそっと口付けた。
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