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月夜の蝙蝠
世界一深い色っていうのは、この漆黒の闇の事だとオレは思う。
そこにぽっかりと取り残されたような青白い月。そこから漏れる月明かりは、あのクソッタレな太陽より優しく地上を照らしてくれるんだ。
そんな月明かりが照らすバルコニーからそっと足音を忍ばせて降り立つ。
夜空を長いこと漂っていると、こうやって地に足をつけた時少しだけ戸惑う。
……オレは果たして空と地、どちらの生き物なのだろうってな。
さて。そろそろお楽しみの時間だ。
オレの可愛いお姫様はもうとっくに就寝時間。天蓋付きの豪奢なベッドで一人寂しく眠っている。
シェークスピアのジジイが書いたあの戯曲、男は何故あの場面でバルコニーを見上げることしかしなかったのか。
オレならこうやって降り立って、速攻奪ってやれるのに。
(あぁオレは人間じゃあないからか)
愛しの恋人は人間にしては白い肌を、うっすら上気させている。小さく漏らす呼吸に、今どんな夢を見ているのだろうと想像を巡らせる。
(今日も素敵だね)
囁いてやりたいが起こしてしまっては気の毒だ。
その代わり、その長くしなやかな指に接吻を。薬指に小さな証を残していこう。
(それじゃあ……いただきます)
この美しい少女の生命に感謝して。
滑らかな肌の首筋にそっと口を付けた。
「んんっ……」
わずかな呻き声を漏らして身動ぎした少女。宥めるように肩を抱く。
痛いのはほんの一瞬。それから先は良い夢を。
―――いつもの通り、その血液は甘く爽やかな香りが鼻に抜けた。
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