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「板持って来い」 「板?」 「道具小屋の外に置いてある」 松五郎が吾郎を見ずに言った。 吾郎が色あせた雨戸と(むしろ)を取って戻ると、松五郎が仰向けにしたらしい。浮かぶ女の着物は乱れ、顔は岩にでもぶつかったのかむごたらしく潰れている。 小さなほくろがひとつある首筋はほっそりと白く美しく、さぞ黒髪も映えただろうと何となく生前の女を偲びつつ、着物の乱れを直した。 冷たい女の体を雨戸に乗せて筵を掛け、松五郎と一緒に村の奥、山腹の寺へ連れて行く。 「おそらく、若いホトケさんだのう」 慈音寺の住職は感慨深げに手を合わせ、 「吾郎は、ここでホトケさんを見るのは初めてか」 「ああ」 「あすこは仏ヶ浦とも呼ばれててな」松五郎は手ぬぐいで汗を拭きながら、 「潮の流れのせいか、年に数回ホトケさんが流れ着く。その時おれらは決まって取引をするんだ」 「取引」 「そうだ。供養するかわりに魚を獲らせろとな」 「汗かき料か」 「そんなちんけなもんじゃねえよ」 腰近く海に浸かってまで漂流してきた死体を引き揚げて供養するのは、この小さな漁村に伝わるひとつの功徳積みなのだろうと、吾郎は思った。 「さて、それではこの可哀想な女子を供養してやろう。向こうに塚があるから、穴を掘ってくれ」 無言で自分をじっと見つめるだけの松五郎に、吾郎は口を「へ」の字に歪めて応じた。
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