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日中もいささかぐずついていた天気は、その日の夜からとうとう雨になった。
雨が降り続けて二日目の夕方、縁側で横になった吾郎は庭からの澄んだ音に耳を傾けていた。
かつての知己の茶庭にあった踞い鉢の仕掛けを真似て造ったもので、水を受けると雫のしたたる音が地中の甕に反響して聞こえ、雨音とともに快い。
うとうととしていると、ふと、外に何かの気配がする。
身を起こしてあたりを見回した。
「いい音ですね」
いつからそこにいたのか、見ず知らずの若い女が生垣の前に立っている。頭の先から紺の着物までずぶ濡れだ。
「水琴窟という仕掛けだ。……こんなに濡れたままだと、冷えて風邪を引くぞ」
雨具も持たない女を、吾郎は庭へ招き入れた。
ぱた
ぱたり
束ねた長い黒髪の先から滴る雫が、縁側にひとつひとつ落ちて鈍く輝く。
吾郎から受け取った手ぬぐいで顔を拭き、両手のひらで挟みこむようにして濡れた髪を拭いた女は思い出したように空を見上げ、
「よく、降りますね」
「そろそろ止んで欲しいところだ」
鉄瓶で沸かした湯を湯呑みに注ぎ、女の傍らに置いた。
「こんな暮らしで白湯しか出せんが、ささやかな暖は取れる」
「……」
女は吾郎に丁寧に頭を下げて、湯呑みを手にした。
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