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探しかたが悪かったのかと目をぱちくりさせる吾郎の様子に女はふふと笑って、
「米もほんの少しございます。よかったら、これで汁粥でも作りましょうか」
「ありがたい」
「では、先にあなたさまの家で支度を」
微笑んだ女は、吾郎を残して去って行った。
しばらく経って温泉であたたまった吾郎が家へ戻ると、何やら外まで食べ物の匂いがする。
火にくべられた鍋ではぐつぐつと汁粥が煮立ち、獲ってきた魚までもが囲炉裏で焼かれている。
しかし、やはり女はいなかった。
それからというもの、漁から戻った吾郎が湯浴みをしていると、女は決まって湯処に現れるようになった。
そして会うこと五回目の日、
「今さらだが、そなた、名は何という」
「しのと申します。……あなたさまは?」
「吾郎」
「吾郎さまは、お武家さまだったのですか」
「何故」
「お話しのしかた。村の男たちとはまるで違います」
「そなたの予想はまんざら外れでもない。……半年前に流れてきたよそ者だからな」
するとしのは無言で立ち上がって藪のほうへ姿を消し、戻ってきた時には着物を着ていなかった。一糸まとわないまぶしい白肌が吾郎の目を細ませる。
思い出したように木々の間から見える海を眺めて、
「い……いい湯だな」
「はい。……でも、それよりも」
太腿、そして男茎にそっと何かが触れて、吾郎ははっとしてしのを見る。
湯の中で冷たい体をすり寄せてきた女は、上目遣いで吾郎を見つめた。
「あなたさまの、精が欲しい」
水面の違和の正体を探りつつも、張りのある胸の膨らみと薄桃色の蕾、すっと伸びた首筋の小さなほくろが、いやに艶やかに見えた。
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