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はたしてどこから通ってくるのか知れない女――しのと会うようになってから、海に出れば大漁、野山に出れば山の恵みにありつけるようになり、吾郎の生活は少しずつ豊かになっていった。 しかしその暮らしは慎ましいもので、 「五日の間、悩みに悩んで、布団を新調した」 「まあ。それはようございました」 「村人からの貰い物だったのでな、どうしても足が出て寒かったのだ」 煎餅布団を仕立て直した座布団に座り、縁側で水琴窟の音を聴きながら、しのと秋の夜長を語り明かした。 そんな仲睦まじいふたりの姿を見ていたのは、夜空の月だけではない。 爽やかな秋晴れの、ある日のこと。 吾郎が船の傍らで網を直していると、松五郎がのそりとやって来て言った。 「貝採りに行かねえか。穴場教えてやる」 「穴場? これからか?」 「おお。申の刻、鎮守岩で落ち合おう」 「わかった」 鎮守岩を過ぎた先の海岸には(ほら)がある。もしかするとそこへ入るのかもしれないと考えて、初めて立ち入る場所に心を躍らせる。 そして時間までに道具の手入れを終え、吾郎は松五郎から言われた鎮守岩に向かった。
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