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「行くか」 「ああ」 注連縄を下げた鎮守岩を通り過ぎて海に向かった。 道すがら松五郎は、この先には村の漁師しか知らない五穴と呼ばれる海の洞窟があると話した。その黒々として先の見えない口を開けた洞の横には、海神を祀る社が佇んでいる。 「神域じゃないか。いいのか、こんなところに」 「大丈夫だ。おれらの神様だからな」 松五郎と手を合わせ、注連縄のある洞へと足を踏み入れた。 やはり慣れたものなのか、松五郎は松明を用意していた。 思いのほか広く長い洞窟の壁や足下にはびっしりと貝が張り付いていて、潮溜まりには引き潮に取り残された立派な魚が数匹も泳いでいる。 手つかずじゃないか、と内心吾郎は苦々しく思う。 つまりは誰も来ていない証し。荒らしてはならない場所なのだ。 「松五郎、やはりここは――」 やめるべきだと振り返りかけた時、突然後頭部を強く殴られて昏倒する。 「――……な、にを」 揺らめく炎に照らされた、両手で何かの塊を振り上げた小柄な影。 もう一度頭を殴られて、吾郎は意識を失った。 どのくらい経った頃か。 気がつくと、すでに潮が満ちてきていた。 倒れたままの吾郎を後ろ手に縛り上げ、足首に岩をくくりつけて立ち上がった松五郎は、ふうと息をついて腰を伸ばすと、足下の松明を拾って、来た道をひたひたと戻り始めた。
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