321人が本棚に入れています
本棚に追加
/25ページ
この日のために伸ばした髪をセットしてもらって、メイクの間にも芽衣子はそわそわと落ち着きなくスマートフォンをチェックしていた。
「芽衣子、そっちどんな感じ?」
「あと十分で始まる!」
違うよそっちのことじゃない、と隣室からモーニングを着こなした久住慶介は笑いながら花嫁の後ろに立った。
「綺麗だよ、お姫様」
「そ、そっちこそ。似合いすぎててなんかムカつく」
私服にヘアメイクを施された姿はなんだか浮いていて、居心地が悪い。
「パパにも……この場にいて欲しかったな」
「……だな」
あの夏、人類は滅亡しなかった。
西暦が二千年になり、更に十九年が過ぎた。何度も災害を乗り越えたこの国の年号も変わり、幼かった少女も今日、結婚式を迎える。
「綺麗よ芽衣子! こっち向いて!」
身内だけの控え室で、藍子はひたすらビデオを回していた。
「もう、披露宴前にバッテリー無くなるよママ」
「藍子さん、俺も入れて」
花嫁の隣でピースサインをする。
「私の旦那より格好良い人は撮らないの、ごめんなさい」
ホホホと笑ってビデオカメラを下ろした藍子は、飲み物持ってくるわねと言ってピンヒールで立ち去った。
「芽衣子ちゃん! 始まるよ」
白いタキシードの新郎が慌てて転びそうになりながら「わあ、綺麗だよすごく!」と騒ぎ立てる。
「知ってる。それはいいからワンセグつけて」
既に花嫁の尻に敷かれながら言われるままにワンセグをつけた。
中継先では、小説の大きな賞の授賞式が行われている。無数のフラッシュの中で、見覚えのあるスーツ姿が真ん中に立った。
最初のコメントを投稿しよう!