2019年、夏

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この日のために伸ばした髪をセットしてもらって、メイクの間にも芽衣子はそわそわと落ち着きなくスマートフォンをチェックしていた。 「芽衣子、そっちどんな感じ?」 「あと十分で始まる!」 違うよそっちのことじゃない、と隣室からモーニングを着こなした久住慶介は笑いながら花嫁の後ろに立った。 「綺麗だよ、お姫様」 「そ、そっちこそ。似合いすぎててなんかムカつく」 私服にヘアメイクを施された姿はなんだか浮いていて、居心地が悪い。 「パパにも……この場にいて欲しかったな」 「……だな」 あの夏、人類は滅亡しなかった。 西暦が二千年になり、更に十九年が過ぎた。何度も災害を乗り越えたこの国の年号も変わり、幼かった少女も今日、結婚式を迎える。 「綺麗よ芽衣子! こっち向いて!」 身内だけの控え室で、藍子はひたすらビデオを回していた。 「もう、披露宴前にバッテリー無くなるよママ」 「藍子さん、俺も入れて」 花嫁の隣でピースサインをする。 「私の旦那より格好良い人は撮らないの、ごめんなさい」 ホホホと笑ってビデオカメラを下ろした藍子は、飲み物持ってくるわねと言ってピンヒールで立ち去った。 「芽衣子ちゃん! 始まるよ」 白いタキシードの新郎が慌てて転びそうになりながら「わあ、綺麗だよすごく!」と騒ぎ立てる。 「知ってる。それはいいからワンセグつけて」 既に花嫁の尻に敷かれながら言われるままにワンセグをつけた。 中継先では、小説の大きな賞の授賞式が行われている。無数のフラッシュの中で、見覚えのあるスーツ姿が真ん中に立った。
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