1999年、6月

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浸っていた僕の肩を、背後から久住が掴んだ。 「中津川、ちょっと今手が離せなくて。夕方でもいいか?」 「あ、おう」 忙しかったらしく、早口で言って立ち去って行く。 (やっぱり……暇なんてなかなか無いよな) 絵本を棚に戻しながら、何となく引っ掛かる考えが浮かんで、僕はわざわざこの階まで来たことが急に恥ずかしくなった。 毎日のように病室まで来てくれていたけれど、もしかしたら『病人』だったから気を遣ってくれていたのかもしれない。 この階の子どもたちと同じように『優しくしなければならない対象』だったのかもしれない。 久住はここでは、僕の知り合いである前に大事な医師なのだ。 顔が見たくなったからとか、話がしたくなったからとか、挙げ句の果てには会いたくなったからとか、そんな理由で引っ張り回してはいけなかったのに。 (僕としたことが……) ほんのちょっとした寂しさから、間違えた。 (もう、無理して来ないで貰おう) 僕はナースステーションで紙とペンを借りて、借りた本の間にメモを挟み、久住医師に渡してもらうように頼んだ。
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