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浸っていた僕の肩を、背後から久住が掴んだ。
「中津川、ちょっと今手が離せなくて。夕方でもいいか?」
「あ、おう」
忙しかったらしく、早口で言って立ち去って行く。
(やっぱり……暇なんてなかなか無いよな)
絵本を棚に戻しながら、何となく引っ掛かる考えが浮かんで、僕はわざわざこの階まで来たことが急に恥ずかしくなった。
毎日のように病室まで来てくれていたけれど、もしかしたら『病人』だったから気を遣ってくれていたのかもしれない。
この階の子どもたちと同じように『優しくしなければならない対象』だったのかもしれない。
久住はここでは、僕の知り合いである前に大事な医師なのだ。
顔が見たくなったからとか、話がしたくなったからとか、挙げ句の果てには会いたくなったからとか、そんな理由で引っ張り回してはいけなかったのに。
(僕としたことが……)
ほんのちょっとした寂しさから、間違えた。
(もう、無理して来ないで貰おう)
僕はナースステーションで紙とペンを借りて、借りた本の間にメモを挟み、久住医師に渡してもらうように頼んだ。
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