1999年、6月

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病室に戻ってから、とてつもなく空っぽな気持ちになり、とにかく何も考えないようにして目を閉じて時間をやり過ごす。 気が付くと溜息ばかり吐いていて、これではまるで恋煩(こいわずら)いだと思った。 近付く夕方に、メランコリーな思考が再び襲ってきそうになった時、病室の戸がノックもなく勢いよく開け放たれた。 久住だった。 「うわ、ビックリ……」 「何だよあのメモ! そんなに迷惑だったかよ?! 」 怒っている……かなり。 体調的にも起き上がれそうもない僕は、ベッドの縁に手をついた久住から何とか顔だけ逸らした。 「僕はお前の患者じゃないだろ」 唐突に出たが、自分を納得させるには充分の台詞だった。 現に、弾んだ話の最中に呼び出しを受けて、緊迫した様子で部屋を出ていくのも何度か見た。 「ちゃんと担当医が」 「俺は……ただ毎日会うの楽しみにしてたのに……」 僕の言葉を(さえぎ)って発したのは、小学生のような感想だった。 思わず振り返って間近で目を見た。まるで泣きそうで、とても悔しそうで。 「ごめん」 声が震えてしまった。 高校の頃は怖いものなんて無さそうで、自分に自信たっぷりで。何度振っても気にもしていなそうだったのに。 「ごめん」 もう一度繰り返す。 僕が重くて起こせないと思っていた身体は、すんなり前に出た。 好かれているから抱きしめてやりたかった訳では無かった。 どうしても、そうしたい気持ちで勝手に身体が動いた。 「『もう来るな』なんて二度と言うなよ」 たどたどしく背中に回された腕が、傷付いている気がした。 「ごめん」 メモなんて、一体何だろうと思ってワクワクして開いたのだという。 「びっくりして、ナースステーションでちょっと泣いちゃったし」 「ぶっ! はは……!」 今も目尻に溜まった涙を拭って、座り直した久住はまだ怒りながら言って、僕は耐えきれずに爆笑した。つられて泣き笑いになってしまったけれど。
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