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病室に戻ってから、とてつもなく空っぽな気持ちになり、とにかく何も考えないようにして目を閉じて時間をやり過ごす。
気が付くと溜息ばかり吐いていて、これではまるで恋煩いだと思った。
近付く夕方に、メランコリーな思考が再び襲ってきそうになった時、病室の戸がノックもなく勢いよく開け放たれた。
久住だった。
「うわ、ビックリ……」
「何だよあのメモ! そんなに迷惑だったかよ?! 」
怒っている……かなり。
体調的にも起き上がれそうもない僕は、ベッドの縁に手をついた久住から何とか顔だけ逸らした。
「僕はお前の患者じゃないだろ」
唐突に出たが、自分を納得させるには充分の台詞だった。
現に、弾んだ話の最中に呼び出しを受けて、緊迫した様子で部屋を出ていくのも何度か見た。
「ちゃんと担当医が」
「俺は……ただ毎日会うの楽しみにしてたのに……」
僕の言葉を遮って発したのは、小学生のような感想だった。
思わず振り返って間近で目を見た。まるで泣きそうで、とても悔しそうで。
「ごめん」
声が震えてしまった。
高校の頃は怖いものなんて無さそうで、自分に自信たっぷりで。何度振っても気にもしていなそうだったのに。
「ごめん」
もう一度繰り返す。
僕が重くて起こせないと思っていた身体は、すんなり前に出た。
好かれているから抱きしめてやりたかった訳では無かった。
どうしても、そうしたい気持ちで勝手に身体が動いた。
「『もう来るな』なんて二度と言うなよ」
たどたどしく背中に回された腕が、傷付いている気がした。
「ごめん」
メモなんて、一体何だろうと思ってワクワクして開いたのだという。
「びっくりして、ナースステーションでちょっと泣いちゃったし」
「ぶっ! はは……!」
今も目尻に溜まった涙を拭って、座り直した久住はまだ怒りながら言って、僕は耐えきれずに爆笑した。つられて泣き笑いになってしまったけれど。
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