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「患者じゃなくて、友達……つーか好きな人の見舞いに来てる。気持ちには応えてくれなくていいけど、毎日ちょっとでいいから顔は見たいし声も聞きたい」
すごくシンプルで真っ直ぐな告白だった。
昔から通算したら何度目か分からないけど。
「うん」
自信なさげに視線を落とした久住の顔を、僕は下から覗き込んで言った。
「関係性を、変えてもいいかな?」
「何に……」
ピンと来ないでいる久住の耳に手をかけて、少しだけ上向いたところで唇を重ねようとして思い出した。
「あ、でも遊び相手が家にいる奴と付き合うのは悩むな」
「もう別れた」
そう言うなり今度は久住から唇を触れ合わせてきた。
何度も何度も角度を変えて、唇の感触を確かめる。深いキスではなかったけれど、それが逆にとても愛おしかった。
何十回したかもわからなくなって、さすがに歯止めが利かなくなりそうだと感じた僕が止めた。
「今日はここまで!」
思わず悩ましげな息をついた僕に、久住はやわらかな笑顔で返した。
「また明日な」
飛び込んできた嵐は、穏やかに帰って行った。
僕は自分の唇を触る。完全に気持ちが浮かれてしまった。
早く寝て明日になって欲しいと、心底思った。
これではやはり恋煩いだ──
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