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このところ、思わしくない身体の変化を感じている。
体力が無いのもあいまって、気弱になっているせいかもしれない。
ふとした瞬間に気が滅入る。「副作用ですね」と言われて仕方がないとは思うものの、自分で躁鬱の変化を感じるのが気持ち悪かった。芽衣子が来ても大して相手もしてやれず、塞ぎがちになってしまう。
「俺の回診でーす」
と、久住は空気を読まずに今日もやってきた。
「……」
健康でいることがどれだけ大事か。健康な人を見ると羨ましいのと妬ましい気分になる。精神的には重症だ。
「どうした? 添い寝してやろうか」
「いらねえ」
恋人というには可愛らしくもないし、愛でたい感じでもないし、何より男だし。
なのにこうして突き放すような冷たい態度を取ってしまっても、構わず手など握ってくるようなところに付け込みたくなる。
「……つらい」
思わず当て付けのように弱音をぶつけてしまった。
今の僕には恋人を喜ばせられる話は出来ないし、してやれることもない。
「検査結果は悪くないんだろ」
「良くもなってない」
「そう腐るなよ、なんかしたいこととか無いの?」
そうだな、と窓の外に目を向ける。
夏らしい日差しは、僕とは無関係の世界に見えた。
「生前葬、かな、なんて」
悼んでくれる姿を見られるなら、それも悪くない。
冗談半分で言ったつもりだったけれど、久住は真顔でしばらく黙った。
「久住……?」
「わかった」
無神経な発言だったかもしれないと、瞬時に後悔した。
そのまま、するりと手を離して久住は病室を出て行った。
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