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翌日、藍子を呼んだ。とにかく大きな花瓶が必要なことと、バラを枯らさない方法を聞くために。
病室に来て花瓶を置いた藍子は口元に両手をあてて、どういう訳か顔を真っ赤にした。
「人から貰ったんだけど……」
「知ってるわ、私が手配したんだもの」
「え?」
久住は花屋を経営している元妻の藍子の元へ行き、無理を押して頼んだという。一年分もの本数を。
「てっきり誰かへのプロポーズ用だと思ってた」
「……それどころか僕の生前葬用だったぞ」
藍子は笑った。
淡い色をしたバラは窓際で、生き生きとした佇まいを見せる。
「紫のバラなんて珍しいよな?」
しばらく大輪の花と向かい合って、何かを思案していた様子の藍子は僕の言葉に振り返った。
「紫じゃない、青よ」
本物の青いバラは、まだ存在しないのだと、藍子は言った。
沢山の研究が成されているが、鮮やかな青が出ないまま。
その為、青いバラの花言葉は『不可能』なのだとも。
「でもいつか、綺麗な青は必ず可能になる」
「そうかな?」
「だって研究者は誰も不可能だなんて、思ってないもの」
しばらく他愛のない話をして、藍子は帰り支度をしてバッグを肩に掛けた。
病室を出る前に余計な一言を残して。
「やっぱりプロポーズだったと思うわ」
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