1999年、6月

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翌日、藍子を呼んだ。とにかく大きな花瓶が必要なことと、バラを枯らさない方法を聞くために。 病室に来て花瓶を置いた藍子は口元に両手をあてて、どういう訳か顔を真っ赤にした。 「人から貰ったんだけど……」 「知ってるわ、私が手配したんだもの」 「え?」 久住は花屋を経営している元妻の藍子の元へ行き、無理を押して頼んだという。一年分もの本数を。 「てっきり誰かへのプロポーズ用だと思ってた」 「……それどころか僕の生前葬用だったぞ」 藍子は笑った。 淡い色をしたバラは窓際で、生き生きとした(たたず)まいを見せる。 「紫のバラなんて珍しいよな?」 しばらく大輪の花と向かい合って、何かを思案していた様子の藍子は僕の言葉に振り返った。 「紫じゃない、青よ」 本物の青いバラは、まだ存在しないのだと、藍子は言った。 沢山の研究が成されているが、鮮やかな青が出ないまま。 その為、青いバラの花言葉は『不可能』なのだとも。 「でもいつか、綺麗な青は必ず可能になる」 「そうかな?」 「だって研究者は誰も不可能だなんて、思ってないもの」 しばらく他愛のない話をして、藍子は帰り支度をしてバッグを肩に掛けた。 病室を出る前に余計な一言を残して。 「やっぱりプロポーズだったと思うわ」
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