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「金は俺が。他の荷物は?」
「俺が持った」
「食料は?」
「最低限詰め込んだわ」
「ローズ、明かりを消して。リリィを抱いてやってくれ」
ローズは蝋燭を吹き消すとリリィを軽々と持ち上げた。眠気が覚めてしまったリリィは嬉しそうにローズに頬を寄せる。
心を落ち着かせるために何度も拳銃を触った。冷たい感触が浮つく心を締めてくれる。何かあったら俺が皆を守らなければいけない。
失敗は絶対に許されない。
俺は一度頷いてみせ、ゆっくり扉を開けた。外は存外暗かった。よかった、これなら暗闇に紛れて……
暗い?
おかしい。今日は満月だ。月が高く昇っている頃だからきっと周りは明るいはずなのに。
ゾクリと背中に悪寒が走った時にはもう遅かった。上を見上げると向かいの建物の上に人だかりが見える。薄暗かった地面は、奴らの影だった。
「やぁロイ エバンス君。こんな夜中にどこへお出かけだ?」
聞きなれた滑り気のある声が鼓膜を這う。ジャリジャリと砂が擦れる音。視線を左に移すとニヤニヤ顔を貼り付けた奴が警棒を機嫌よく振りながら歩いてきた。
「捕らえろ」
銃を構える暇もなかった。大の大人が何人も飛び降りてくる。頬を殴られ一瞬意識が飛びかけたが、アナの悲鳴で現実に引き戻された。
床に組み敷かれ顔を上げた時にはもう既に全員が捕らえられていた。
「子ども達がこんなに! すぐ保護しなくては。ロイに騙されたのか? 怖かったねぇ。さぁおじさん達と一緒に行こう」
「警部! この娘……あの魔女です!」
「なんだと?!」
猫撫で声をやめた奴はドスドスと派手な音を立てて納屋に入ると、恐怖に震えるローズを舐めるように見定めた。
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