5247人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
「お礼に行かなきゃいけないでしょ?」
「そのバイトの人って川北くんだから、大丈夫だよ」
「そういう問題じゃなくて。とにかく、今度またそんなことがあったら、ちゃんと報告して? お願いだから」
「……わかった」
そう言うと、お母さんは無理に微笑むような表情をつくり、またキッチンへと戻った。換気扇を回し、コンロに火をつける。
「ねぇ、結子」
手を洗いに行こうと、洗面所に足を向けたときだった。野菜をフライパンで炒めながら、お母さんが口を開く。
「なんで倒れたの?」
「ちょっと……気分が悪くなって」
そう言うと、お母さんはしばらく押し黙った。炒め物の音が響き、匂いが漂ってくる。
「もしかして、ケーキが関係ある?」
一瞬、聞き間違いかと思った。お母さんには、ケーキが苦手だということを言った覚えはない。
「ただの貧血だよ」
これ以上話を続けたくなくて、私は洗面所へ急ぐ。そして、そのまま自分の部屋へ向かった。
その日のラジオは、人と動物が心を通わせる物語だった。知らないラジオネームだったし、あまり集中できず、私は途中でラジオを切った。
最初のコメントを投稿しよう!