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「昨日のラジオ、聴いた?」
翌日、図書室で戸崎くんの斜め向かいに座って本を読んでいると、そう質問された。
「あぁ、うん。ちょっとだけ」
「そう」
「戸崎くんも聴いた?」
「オチが意外だった」
「そうなんだ。録音してるから、今日ちゃんと聴いてみようかな」
戸崎くんは返事をしない代わりに小さくうなずいて、クリップで留められた用紙の束をぱらりとめくった。新作だろうか。気になるけれど、向こうから何も言われない限り黙っておこうと思った。
彼のお父さんが作家だと知っているとバレた今、出しゃばった言動で嫌われたくはない。
「将真とは、あれからどう?」
少し沈黙が続いたあと、また戸崎くんのほうが口を開く。川北くんの名前を出されて、肩がびくりと動いたけれど、なんでもないふりをした。
「どう……って、べつに、何も」
「そう」
「掃除も、代わりに嶋野さんが来るようになったし」
戸崎くんは少し驚いた顔をしたあとで、ふっと微笑んだ。そしてまた、
「そう」
と言う。
私には、戸崎くんがなんで笑ったのか、そしてなんでそれ以上聞いてこないのかわからなかった。
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