5247人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
「それでね、隼人くんは中学のときも前髪が長くて、体育とかで走ったときだけ顔が見えるの。それで女の子たちから歓声が上がったりして……」
帰りのホームルームが終わってからも、嶋野さんは私の方へ振り返って戸崎くんの 情報を惜しみなく教えてくれた。これが善意だからタチが悪い。
私は愛想笑いをして、「そうなんだ」と繰り返す。
「帰るぞ、萌香」
川北くんが嶋野さんの頭をポンと軽く叩いた。私とは目も合わない。まるで私が見えていないかのようだ。だけど私も何も言わなかった。『関わりたくない』と私から言っていたのだし、川北くんも『話しても意味ないね』と言ったんだから。
嶋野さんは、それでもなんだか私たちを心配するような表情をしていた。
「じゃあ帰るね。バイバイ、瀬戸さん」
手を振る嶋野さんに私も手を振り返し、並んで教室を出るふたりの背中を見送った。
最初のコメントを投稿しよう!