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「わぁ、大変だ。お見舞い行ったほうがいいかな?」
「いや、あいつはそういうの嫌いそうだから、ドアにゼリーでもかけとけば?」
「そっか、グレープゼリー好きだって言ってたもんね、隼人くん」
ふたりの会話を目の前で聞いていた私は、なんとなく気分が重たくなった。見えない壁に遮られたように、ふたりが遠く感じる。
ラスクさんが戸崎くんだと知ったから、なんだというのだろう。浮かれていた自分が馬鹿みたいだし、彼の連絡先も知らなければ、そもそも友達と呼べるような仲とも言えない。何もかも肩透かしをくらった気分になる。
それに、戸崎くんが休みだって教えてくれるということは、私が急いでいたことや毎日図書室に通っていることの意味を川北くんは知っているということで……。
そこまで考えて、急にかっと頬が熱くなる。
「それじゃ」
早口でそう言った私は、足を図書室の方へ進めた。ここで踵を返したら、戸崎くんに会うためだけに通っているみたいで格好悪いからだ。嶋野さんは「うん、じゃーね」とまた小刻みに手を振ってくれた。川北くんとは、やっぱり目を合わさなかった。
もしかして嶋野さんは、私が戸崎くんのことが好きだと川北くんに言ったのかもしれない。そんなことが頭をよぎり、そっとふたりの方を振り返る。ちょうど渡り廊下から校舎へ入るところにいた川北くんも、嶋野さんと話しながらも視線をこちらによこしていた。
……べつに川北くんが何を聞いていたって関係ない。それなのに、今さら目が合った川北くんの横顔が、頭から離れなかった。
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