破かれた最後のページ

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すると川北くんが小さく鼻で笑った。自分のその返し自体が肯定になっていたことにあとから気づく。 「すごいね。こんな入学してすぐに」 嫌味とも取れるその言葉に、私はむっとした。川北くんに言われると、どうしても無駄に反応してしまうのだ。戸崎くんに対して大した理解もないくせに、と言われているようで悔しい。 「私の憧れの人なの。尊敬してる」 私は彼の素晴らしい作品を知っているし、そういう作品がつくれる素敵な人柄だということも知っている。それに彼はラスクさんだ。入学してすぐに、なんて言われたくない。私は二年前から知っているんだ。 「付き合いたいとか思ってるの?」 「そういうのは……ていうか、なんで川北くんに言わなきゃいけないの?」 川北くんはあくまで静かなトーンで話していた。私だけがむきになっているようで恥ずかしくなる。 「無駄だから」 けれど、さらりとそう言った川北くんの言葉で、私の勢いは消沈する。 「隼人は、べつに好きな人がいるよ」 しばらく沈黙が続いた。私は何を言うべきなのかわからないし、川北くんも何も言わない。人気のない図書室は、貸し出しカウンターにいる図書委員の咳払いが聞こえるだけで、私たちが黙ると本たちすら息をひそめているような静けさだ。 川北くんの言葉に、私は少なからず驚いていたし、戸惑っていた。だけど、それは戸崎くんに好きな人がいたことに対してじゃない。自分がそのことに対してまったく悲しく思っていないという事実にだ。
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