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「それだけ言っておきたかったんだ。じゃあね」
代わりにそんなひとことを残して、川北くんは立ち去った。諦めたような、だけど、どこか悲しそうな声だった。
クラスメイトなんだから、すぐ教室で会う。それなのに、なんとなく川北くんがとても遠いところに行ってしまうような気がした。そしてふいに、小一で引っ越したときのことが頭によみがえってきた。
私が泣きじゃくっている。突然の引っ越しで、お父さんに会えなくなることを、みんなに会えなくなることを嘆いている。そして――将ちゃんと会えなくなることに絶望している。
「……嫌だ」
助けを求めるようにつぶやいたその声は、もう図書室をあとにした川北くんには聞こえていなかった。
身体が心臓の鼓動に支配されている中、折りたたまれた紙が視界に入る。
『じゃあ、つなぎ合わせればいいよ』
さっきの川北くんの言葉が耳に残っている。なぜだか、その最後のページを見なくてはいけない気がした。川北くんと再会してから、うまくいかないことばかりだ。その答えが、ここにあるような気がする。いや、それはもう確信に近かった。
怖くてしかたないけれど、私は川北くんが置いていった紙を手で寄せて、ゆっくりゆっくり開いた。
「……っ!」
その絵を見て、悲鳴を上げそうになった。
そこに描かれていたのは、お父さんとお母さんと、私。
……だったはずが、真ん中の私は、真っ黒なクレヨンで紙に穴が開きそうなほど強く塗り潰されていた。
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