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お父さんにもケーキを見てほしくて、手をふいた私はキッチンへと戻ろうとする。
『なんでっ……』
『だから……』
キッチンのドアを開けようとしたとき、ふたりの声が聞こえた。お母さんの甲高い声と、お父さんのため息まじりの声。
『結子も楽しみにしてたのよ! どうしてこんな日の夜にそっちを優先するの?』
『聞いてねえよ』
『言ったわ! もう少し家族のことを考えてちょうだい』
私はふたりに気づかれないように、そっとキッチンのドアを開けて中を覗いた。もう何度目だろうか。こうやって、お父さんとお母さんの言い合いを見るのは。
私は痛いくらいにドクドク鳴っている心臓を押さえ、苦しくなってくる息を、なんとかゆっくり吸って吐こうとした。
『家族家族って、お前とあいつのことばかりじゃねえか! 家族って言うなら、俺に対するお前の態度はどうなんだ? いつも虫けらを見るような目をしやがって』
そこでお父さんが怒鳴り声を上げて、私の心臓が大きく跳ねた。
『そもそも、あなたがっ……』
大丈夫……大丈夫だ。こんなの、すぐ終わる。
だって、今日はふたりの結婚のお祝いの日。お父さんとお母さんが仲直りしてくれ る日。今からお母さんはごちそうをつくってくれて、みんなでそれとケーキを食べて、そして、絵本をプレゼントして……。
自分に暗示をかけるように、頭の中で繰り返す。大丈夫、大丈夫だと。
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