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私は将ちゃんに字を頼んでいた最後のページを見た。
"王さまもおきさきさまも、まほうがとけました。ふたりのあいだにおひめさまもうまれました。なまえはゆいこひめです。いつまでも三人でしあわせにくらしました。めでたしめでたし"
私が描いた王様とお妃様、そしてお姫様はみんな楽しそうに笑っている。違う、とそのとき私は思った。
『子どもなんて産まなきゃよかっただろう! そのせいで、こんなことになってるんだから!』
お父さんが言った言葉が耳をかすめる。
『だめだ、これじゃだめなんだよ。将ちゃん』
『だめって何が? 結子がそうしようって言ったじゃん』
『だめなんだよっ』
熱に浮かされたようにそう繰り返した私は、持ってきていたクレヨンを取り出し、その中から黒を選んだ。
『結子、何してんだよ!』
将ちゃんが必死に私の肩をつかむ。私はそれを振り払い、一部分をぐりぐりと塗り潰した。
『だって、だめなんだもんっ!』
ぽたぽたと涙がページに落ちていく。将ちゃんが書いてくれた文字が滲んでいくのを見て、私はいっそう悲しくなった。王様とお妃様の真ん中に描かれた"ゆいこひめ"が真っ黒に塗り潰されて、見えなくなっていく。だけど塗っても塗っても、ゆいこひめが浮き出てくる気がして、私は何度も黒で潰した。
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