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『結子っ! どうしたんだよ、やめろって! せっかく一生懸命描いたのに、なんでそんなことするんだよ!』
将ちゃんが本気で怒っている。けれど、私は急がなくちゃいけなかった。
『将ちゃん、最後の部分、書き直して? この文のところ塗り潰していいから、私が生まれたのなしにして』
服の裾を握り、すがりつくように将ちゃんに言うと、彼は私を睨むような目をして首を横に振った。
『嫌だ。絶対嫌だ』
『お願い、将ちゃん!』
『落ち着けって、結子! 何があったのか、ちゃんと教えろ』
『じゃあ、もういい! 私が書き直す!』
『結子!』
将ちゃんは大きな声で私の名前を呼び、とうとう絵本を奪い取った。それを見た私の目に、また涙がたまっていく。早くふたりに絵本を渡さなきゃいけないのに。そう逸る気持ちと、将ちゃんに怒られているという心細さが、私をますます混乱させた。
『だって、私のせいで……お父さんとお母さん……』
言いながら、声が詰まる。自分でも何を言いたいのか、何がしたいのかわからなくなっていた。
『私なんて、いないほうがいいんだもん……』
そのほうが、願い事も叶う。ぐちゃぐちゃになった頭でそう思ったら、涙がまた頬を伝った。そのひと筋がとてつもなく熱く感じる。
『いないほうがいいんだもん!』
秘密基地の中、私の声が大きく響いて、喉が一気に潰されたように痛んだ。
将ちゃんは、怒った顔のままだ。拳を思いきり握って、唇を震わせている。将ちゃんのそんな顔は、はじめて見た。
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