言葉を取られた王様とお妃様

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言葉を取られた王様とお妃様

目が覚めた私の目には、うっすらと涙の膜がかかっていた。金曜日の昼休み以降、ずっと意識がふわふわとしている。今が月曜日の朝だと気づくのに、しばらく時間がかかった。 「あぁ……そうか」 あの日のことをすべて思い出してしまった。お父さんとお母さんが喧嘩をしたこと。お父さんがケーキを床に落としたこと。将ちゃんが絵本を破ったときのこと。 重たい頭を上げて、自分の勉強机の引き出しを開ける。三日前に川北くんが持ってきた絵本の最後のページが、折りたたまれて入っていた。 「結子、朝よー……って、もう起きてたの?」 お母さんが部屋のドアを開ける。その顔は、あの頃のお母さんよりも年をとり、そして疲れた顔をしている。それもそのはず、お母さんはさっき夜勤から帰ってきたばかりのはずだから。 「……おはよう。おかえりなさい」 ぼんやりと口を開くと、お母さんは目尻にしわをつくって笑った。 「おはよう。ただいま」 支度をして、お母さんと朝ご飯を食べる。朝は必ず一緒に食べる、というのは、お母さんが夜勤をはじめてからもずっと続いていた。
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