言葉を取られた王様とお妃様

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「お母さん……私……」 そう言いかけたけれど、「ん?」と首を傾げたお母さんを見て、なんて言えばいいのかわからなくなった。お母さんがあまりにもいつもどおりの笑顔だったから、それを壊すようなことを言いたくなかった。 「……ううん、いい」 「何よ、気になるわね」 なんでもないように笑うその顔を見て、複雑な気持ちになる。 今まで私たちは、あの日のことを話したことはなかった。思い出させないように、お互いに無意識のうちに話題を出すことを避けるようになっていたのかもしれない。実際、ふたりきりでもお母さんのおかげでこうして平和に暮らしてきたんだし、今現在大きな問題もないんだ。 それなのに、今さらあの日の話をして何になるのだろう。お互い居心地悪くなるだけだ。だって、過去に起こったことは変わらないのだから。 「本当にどうしたの?」 お母さんが不思議そうにたずねてきたけれど、私はゆっくりと頭を振って笑顔をつくる。 「なんでもない。ごちそうさま」 そう言って手を合わせ、私は学校に向かった。
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