言葉を取られた王様とお妃様

3/30

5246人が本棚に入れています
本棚に追加
/172ページ
教室に行くと、川北くんはすでに席に座っていた。けれど、やはり何を言うべきかわからずに、いつものように目を合わさぬまま過ごす。 「ねぇ、やっぱり朝から元気ないように思うんだけど。私に対するつっこみが甘いわ」 お昼を食べているとき、沙和に心配そうに言われたけれど、生理痛だと言ってごまかした。 昼休みには、もう習慣になっている図書室に向かう。読書スペースまで行くと、いつもの場所に戸崎くんが座っていた。 「どーも」 戸崎くんはいつもと変わらない調子で挨拶をしてくれる。 「風邪、もう大丈夫?」 そう聞くと、戸崎くんはやはりふわりと微笑んだ。大丈夫だということなのだろう。 「なんか、毎日会ってたから、いないと不思議な感じがしたよ」 冗談めかして言うと、戸崎くんが小首を傾げる。 「僕が休んでいるときも、ここに来てたの?」 「……うん」 これではなんだか好きな気持ちをほのめかしているみたいだ。でも、全然そんなつもりもないし、戸崎くんもそんなふうには受け止めていないようだった。 彼はいつものように原稿に目を通し、私は読書をはじめる。 あ、そういえば……。 金曜日のことがあってすっかり忘れていたけれど、戸崎くんには聞きたいことがあったんだ。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5246人が本棚に入れています
本棚に追加