5246人が本棚に入れています
本棚に追加
「瀬戸さんには、夢がある?」
けれど、なぜか急に話が変わって、拍子抜けしてしまった。戸崎くんは本当につかみどころがない。
「夢……」
戸崎くんはきっとお父さんと同じ作家になりたいのだろうと思う。そういえば、前にも松下先生に同じことを聞かれた。あのとき、川北くんはすぐに答えていたけれど、私は何も思い浮かばなかったんだ。だけど今は……。
「夢っていうか……やりたいことなら……」
記憶の隅に押し込んで、くしゃくしゃになっていたあの頃の思い出。それをひとつひとつ丁寧に思い出していけば、自ずと答えがあった。
「絵本を……」
そう口に出したら、急に目頭が熱くなる。戸崎くんは、私の言葉の続きを穏やかな表情で待ってくれていた。
「できたら、また、絵本を……描いてみたい」
こぼれそうになる涙をかろうじて我慢して、私はかすれた声でそう言った。
あの頃、わくわくしながら絵本の絵を描いていた私も、今、小説に感化されて衝動的に絵を描きたくなる私も、同じだ。
物語の絵を描きたい。また絵本をつくりたい。昔の記憶と向き合えた今、私ははっきりとそう思えるようになっていた。
最初のコメントを投稿しよう!