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それから、二週間ほど経った。梅雨も終わりに近づき、だいぶ蒸し暑くなってきている。
「最近さ、図書室行ってないよね」
昇降口へ向かいながら、沙和に聞かれる。
「もしかして、フラれたの?」
「違うわよ」
「じゃあ、なんで?」
「小説を読み終わっちゃったから」
「なんじゃそりゃ」
国語科準備室で借りた短編集も読み終わっていた。けれど、まだ返していない。返すなら川北くんに伝えるべきだと思うと、どうすることもできなかった。あれから、私たちは話をひとつもしていない。
靴に履きかえ、傘立てからそれぞれ自分の傘を取る。朝は降っていなかったけれど、最近天気予報もあてにならないので、念のため持ってきていたのだ。
案の定、外に出ると、雨が降っていた。音の少ない小雨だけれど、絶えずしっとりと降り注いでいる。
「あれ、モエモエじゃない?」
昇降口の軒下の端、傘を持った男子生徒に話しかけられている嶋野さんがいた。赤いクラスバッジをしているから、三年生のようだ。
「傘忘れたんでしょ? 送るから俺の傘入りなよ」
「いえ、だから、人を待ってるんです」
「だってさっきからずっといるじゃん、雨がやむのを待ってるだけでしょ?」
嶋野さんの言葉も聞かず自分の傘をさしたその先輩は、無理やり傘に入れて一緒に帰ろうとしている。
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