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「俺、傘ないんだけど……あ、借りたんだね。ありがと、瀬戸さん」
"瀬戸さん"なんて、なんだか他人行儀だ。私は、「べつに」とだけ言って沙和の方へ戻ろうとする。
だけどそのとき、
「男前なところ、変わってないんだな」
ぼそりとそう言われた気がして振り返る。
川北くんは、傘を開いて嶋野さんと帰っていくところだった。
私の傘をさしながら並んで歩いていくふたりを見送る。少し振り返って、「ありがとう」と口パクで言った嶋野さんの頬は、ここから見ても紅潮しているのがわかった。触れるか触れないかというほどの距離にある川北くんの腕と嶋野さんの肩。
私はそれを見ながら、小一のときの帰り道を思い出していた。将ちゃんの傘に入れてもらったのだけれど、ふたりとも肩やら腕やらランドセルがぶつかって、怒ったり笑ったりしながら帰ったんだ。
「あー、やっぱりいいわね美男美女の相合傘は。身長差もパーフェクトだわ。ごちそうさま、って感じ」
うっとりしたような沙和に、「そうだね」と返す。
「でもさ、あのふたり、まだ付き合ってないのよね?」
「時間の問題じゃない?」
そう言った私の顔を覗き込んだ沙和は、小気味いい音をさせてジャンプ傘を開く。
「結子はほんと、川北くんに関わることだけは顔に出るわね」
沙和は鼻を鳴らしてそう言った。顔に出ると言われても、それがどんな顔なのかわからない。私はそっけなく、「何それ」と言って沙和の傘に入った。
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