言葉を取られた王様とお妃様

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『えー、今日から一カ月はですね、今までの放送の中で、皆様からのリクエストが多かった作品をご紹介したいと思っています』 今日は水曜日。私はいつものようにイヤホンをしてラジオを聴く準備を整える。 『さて、今日はですね、常連さんの……S県在住のラスクさんの作品です』 その言葉で閉じていた目を開ける。 「戸崎くんだ」 まるで自分の名前が呼ばれたかのような高揚感だ。最近ラスクさんの作品は読まれていなかったので、過去の作品だとしても嬉しかった。 『これは、ラスクさんがはじめてこのラジオで読まれた作品ですね。三年前のものです。この話、私も覚えています。ファンタジーですが、なんだか絵が頭に浮かぶようで、大人も子どもも心があたたかくなるような、そんな素敵な物語です』 三年前といったら、私はまだこのラジオの存在を知らない。お母さんから押入れにしまいっぱなしだったラジオ機を譲り受けたのが、二年前だったからだ。 ラスクさん……戸崎くんのはじめての作品ということで期待に胸が膨らむ。どんな 話なのだろう。そうだ、イメージして絵を描くために、お母さんからもらったマーカーセットとスケッチブックを出しておこう。 『タイトルは"言葉を取られた王様とお妃様"』 そのタイトルを耳にしたとき、道具を出そうと動かした手が止まる。 「……え」 期待でいっぱいになっていた心が、一気に凍りつくような感覚がした。
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